mathematical formula photo

 

 

 

先日、
久しぶりにモーニング娘。′14(※)の
「時空(とき)を超え 宇宙(そら)を超え」
を聴いてしこたま泣いてしまいました。

 

※現在は「モーニング娘。′16」で活動されています。

 

 

イントロからもうね。
ピアノとヴァイオリンの音が泣かせにくるんですよ。
とくにピアノの旋律はまるで流星群か雨粒のようで。

 

歌詞も、

過去の自分から未来の自分へ。
母(私)から将来生まれてくる子(君)へ。
今の時代を生きる私たちから次の時代の人々へ。

 

様々な考察ができるんですけれど、
毎サビの最後にくる歌詞!ここに!すべての希望と祈りが込められているようで。
神秘的で切々とした音と言葉がたまらないんですよ。

 

発売当初は泣かないどころか、
思い入れもそんなになかったんだけどなぁ。
今では非ヲタにも自信をもって勧められる名曲ポジです。

 

そんなわけで今回は「宇宙(そら)」のおはなしです。
向井湘吾氏『お任せ!数学屋さん2』読了しました。
作中には中学生の数学少年・宙(そら)君が登場します!(無理やり感)

 

 

 

店長不在の「数学屋」は不登校の少女を救えるか


 

 

「数学屋」にピンチ到来!?

 

天才数学少年・宙と
体育会系女子・遥の凸凹コンビが営んでいた、
摩訶不思議なお店「数学屋」。

 

日常の困り事から恋愛相談まで、
中学の同級生から寄せられるどんな問題でも
「数学」を使って華麗に解決してきた
人気のお悩み相談所だったが、
宙のアメリカ留学によって最大の危機を迎える。

 

宙の不在により、
たった一人で「数学屋」を引き継ぐことになった遥の前に、
一筋縄ではいかない難問が持ち込まれたのだった。

 

一年に一度の文化祭〈鴫立祭〉を前にもたらされたのは、
実行委員・秀一からの切なる依頼。
それは二学期から学校に来なくなった
幼馴染の聡美を助けたいというSOS――。

 

果たして、駆け出し数学屋は、
無事にこの難題を解決することができるのか!?

 

****話題の青春数学小説、待望の第二弾! !****

 

※あらすじはポプラ社公式HP「くわしい情報」より引用しました。
http://www.poplar.co.jp/shop/shosai.php?shosekicode=81012970

 

 

 

前回紹介した『ハセガワノブコの仁義なき戦い』同様、
特集記事を書いているときに続編の文庫化を知って読みました。

 

 

文体、というか、内容は、
前作よりも数学のおはなしが少し難しかった…かな(数学苦手)
ただそのぶん解説はゆっくり・丁寧になったように感じました。

 

宙(店長)不在でも、
きちんと数学屋は機能していました。
設定に違和感はありませんでしたね。

 

あと個人的には揚げアイスの飯テロがつらかったです。
文化祭のくだり揚げアイスのことで頭いっぱいでした(笑)

 

 

 

キャラクターは安定のクオリティ。

 

遥は相変わらず努力の子で応援したくなる健気さ。
宙も遠くの地にいながらブレないとぼけっぷりと存在感。

 

今回はそれに加えて、
親友の真希が結構活躍しているように見えましたね。
ソフトボール部の癒し系・葵もがんばっていました。

 

新キャラはやっぱり秀一が印象的ですね。
ガチガチの真面目堅物っぷりには笑いました。
宙(真面目)と絡んでいるところも見てみたい。
秀一のほうがちょっとイライラしてそうです←

 

 

 

構成は各話につきメインのお悩みが1つ、
水面下で聡美の問題が同時進行している感じです。
個人的にはこの聡美のおはなしがイマイチでした。

 

連作短篇としてはおもしろかったと思いますが、
(でも連作短篇として見ると3話は内容が薄い)
大元の聡美のおはなしが最後までしっくりこなくて、
「数学屋は彼女を救えたのか」と訊かれると正直私は
素直に肯定できなくてモヤモヤ違和感が残りました。

 

今後このように、
大きなおはなしを1つ仕込んで書かれていくのでしょうか。
前作のような連作短篇のほうがおもしろかったんですがね。

 

 

 

以下、
各話の感想を書いていきます。

 

 

 

数学と関係ないことなんて、この世界にない。


 

 

問一.文化祭の出し物を決めなさい

 

舞台か模擬店か。
店長不在の「数学屋」は“代理”の遥(勉強中)だけで
文化祭の出し物の話し合いを無事まとめられるのか。

 

収録されている中で、
日常に活かす数学というのをもっとも感じたおはなし。
無機質な数字が人の背中を押すこともあるって不思議。

 

夏休みのあいだに猛勉強して数学をモノにし、
遥1人でもあっというまに解決!…ではなく、
猛勉強したって無理なものは無理だったので
素直に人の手を借りて一緒に答えを考えよう、
という遥らしい「数学屋」の形が好印象でした。

 

ここで登場した数式や考え方は、
他の二択にも応用できるかもしれませんね。
次に読む本が決められないときとか使えませんか?←

 

 

 

問二.美しいアーチを設計せよ

 

文化祭の第一印象を決める正門のアーチ。
そのデザインを遥にと実行委員の副委員長が直々に指名。
数学の知識は美しいアーチを設計することができるのか。

 

黄金比と白銀比について出てくるのですが、
なんと偶然このあいだテレビで見たばかり。
個人的にタイムリーな話題でびっくりしました。

 

黄金比はモナリザの顔、
白銀比はキティちゃんの顔に用いられているとか。
前者は世界的に、後者は日本的に、美しいとされるようです。

 

この黄金比と白銀比をどちらも顔に持っているのが、
アイドルグループ「Rev. from DVL」の人気メンバー
橋本環奈さんだそうです、すごい、さすが“1000年に1人の美少女”さん。

 

「美しい」という人間の感性にも
数学が隠れているなんてなんだか不思議ですよね。

 

 

 

問三.乙女心を理解しなさい

 

二学期から不登校になった少女・聡美。
彼女が学校に来なくなった理由は恋だったのか?

 

ようやく不在の「数学屋」店長・宙が登場します。
遥と宙の電話パートとんでもなく萌え転げました。

 

「まだアジアから出られてないから!」って言う
遥がかわいすぎてもうどうにかなりそうでした。
宙の返しも完全に夫婦でしたありがとうございます。

 

ゾウの鼻の上にいるアリは、
自分が乗っているのは、ヘビみたいに細長い生き物だと思う。
それに対して、耳の上にいるアリは、自分は、
葉っぱみたいにぺったんこの生き物の上に乗っている、
と思うだろう。

 

「あまりにも大きいものの上に乗っかっているとき、
僕らは全体像を正しく把握できない」っていう宙の
話は哲学的な話にも聞こえて興味深かったですね。

 

聡美の話と言っておきながら感想が遥と宙…(笑)

 

 

 

問四.不登校の生徒を救いなさい

 

宙から送られてきた謎のメール。
そこに記された数式は聡美を救う解決策なのか?
だとしたらこの数式はいったいなにをあらわしている?

 

私だけかもしれませんが、
遥がその数式を解いてみせたとき、
背中がぞおっとしてしまいました。
もちろん遥が怖いって意味ではないです←

 

高校生のとき、
諸々の事情で心が「わああっ!」となってしまって、
中間テストの1週間?を丸々休んだことがあります。

 

目標を達成させるプロセスなんかでよく、
小さな目標から徐々にというのがありますが
負の連鎖もあれにとても似ているんですよね。

 

最初の1日が成功してしまうと、
罪悪感も抵抗も、理由も、最後にはなくなってしまう。

 

あの感覚っておそろしいんですよ。
自分の目の前で自分が変わっていくような。
他人事のような自分の心の変化って怖くて。

 

当時のことを思いだして、
胸がギューッとなりました。

 

あ、あと謎のメールのオチにはすごい笑いました。

 

 

 

問五.夢との距離を測りなさい
解答・解説――月と宙と遥

 

文化祭当日。
「数学屋」の常識はずれの大計画は、
観客の心を動かすことができるのか――。

 

「今」分からないからって、
この先ずっとそうだとは誰も言い切れない。
何年後か、何十年後か、あるいは何百年後か……。
役に立てる方法を、どこかの誰かが見つけるのかもしれないのだから。

 

これは数学だけじゃなくて、
読書でも同じことが言えるんじゃないでしょうか。

 

買った当時は意味がわからなくてつまらなかったけど、
何年かしてから再読したらとてつもなくいい本だった。

 

最近、
青空文庫で宮沢賢治とかを読むのですが
毎日そんな発見ばっかりで驚いています。

 

冒頭の「時空を超え 宇宙を超え」もそうですね。

 

過去になっていく自分が未来の自分へ託していく。
人の一生がこうした経験のリレーなのだとすれば、
学問もまた人から人へと知識を未来に託していく、
壮大で途方もない長い長いリレー作業なのかもしれません。

 

 

 

“みんな”で考える読者参加型数学小説


 

 

今回出先での読書だったので、
遥たちと一緒に計算ができずちょっと後悔。
(数学不得意なので書かないと無理です私)

 

この小説は家やカフェなどゆっくりできる場所で、
横にノートをひろげて遥と一緒に計算をしながら
読んだほうがグッと楽しめる作品だと思いますよ。

 

みんなで一緒に考えて、
この問題に立ち向かおうよ。

 

遥が語りかけているのは、
依頼人やクラスメイトや仲間たちだけではなく、
私たち読者も含めた“みんな”だと思うのです。

 

数学を扱った小説は他にもありますが、
読者までも巻きこんで一緒に計算を解いて楽しむという数学小説は、
遥だからこそできた唯一無二の新しい数学小説の形かもしれません。

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。