doll photo

 

 

 

昔から人形が怖くてたまりません。

 

幼少期のおともだちはシルバニアファミリーでした。
リカちゃんやバービーをねだったことはありません。
人間“のような”目がどうも苦手で…直視できない。

 

最近だとPepper君(ロボット)もダメです。
まだ実物に出会ったことはありませんが、
画面越しでも恐怖なので実物にはおそらく近づけない。

 

彼らの目って笑っていないじゃないですか(個人の見解)。
人間は目も含めて笑うと思うのですが彼らのスマイルは
口元だけが笑うので、なんというか、耐えられないです。

 

将来、子供にぽぽちゃんとかねだられたらどうしよう。
家にぽぽちゃんを置く恐怖に耐えられるのだろうか…。

 

そんなわけで今回は人形のおはなしです。
森川智喜氏の『踊る人形』を読了しました。

 

 

 

着脱可!?不死身の怪人あらわる!


 

身体を自在に着脱できる
人形男がどこまでも追ってくる!

 

目的は、
自分の生みの親である博士に
もう一体動く人形(ゴーレム)を作らせること。

 

これに対し少年探偵隊は、
唯一の弱点である頭部内の
「命を生む紙」を入手しようとする。

 

しかし、
ようやく目にしたのは
聞いたのとはまったく違う文字だった!

 

周到な論理によって構築された極限状況ミステリ。

 

※あらすじは講談社BOOK倶楽部の掲載文から引用しました。
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062933049

 

 

 

森川氏のデビュー作『キャットフード』からの、
おなじみ“名探偵三途川理”シリーズの3作目。
文庫化されるのを待っていてようやく読めました。

 

mugitterには過去2作品の感想をUPしておりませんが、
前述した1作目も2作目『スノーホワイト』も読了済。

 

もちろん、
この感想記事では過去2作品を未読の方でも
気軽に参考程度に読める内容で書きますので
どなたさまもぜひ読んでいってくださいませ。

 

 

 

今作から読んでも問題ナシ!


 

先ほど「シリーズ」という言葉を使いましたが、
厳密には3作品に共通して〈三途川理〉という
名探偵が登場するというだけで物語がそれぞれ
繋がっているというようなものではありません。

 

実際私も『スノーホワイト』から読みましたが、
前後の作品を読むのに支障はありませんでした。

 

むしろ個人的には、
本作が時系列的には1番最初にあたるのかなと
思ったのでここから入るのもアリじゃないかと。
(本文では明記されていないのであくまで推測)

 

読むにあたって考慮してほしい点は文体でしょうか。

 

村上貴史氏の解説にも、

 

江戸川乱歩の
少年探偵団シリーズを思わせるような口調を、
森川智喜は採用したのである。

 

とあるように、
文章は敬語で読者に語りかける体裁です。
見慣れていない人は戸惑うかもしれません。

 

ただ、
だからといって違和感があるとかではなくて、
問題編があって解決編があってをくりかえす、
さながら謎解きドリル?のようなワクワク感。

 

私でも作中2つの謎に正解することができました。
文体の効果もあってか子供に戻ったような気分で
考えて答えをひねりだして正解だとうれしくって、
最後まで考えて考えてとっても楽しく読めました。

 

 

 

固定観念をぶちこわす天才


 

物語としておもしろいのは、
今回犯人役がなんと“人形男”。
身体を自由に着脱できるほぼ弱点ナシの、“人形男”。
しかもこいつ、むかつくことに、頭もいいときました。

 

そんなのアリかと思うような非現実設定なのに、
登場人物たちは現実を見失わずに対抗していく。
それでいて解決や真相は夢見がちにはならずに
きっちり納得の展開で収束するからすさまじい。

 

この非現実的で現実的なアンバランス感。
いろんな固定観念を崩してくるところが、
予想外で唯一無二でたまらなくいいです。

 

 

 

予想外といえばもう1つ。

 

先ほどから何度も名前が出ている
この“三途川理”という男の存在。

 

未読の方のために
過去の所業は伏せさせていただきますが、
今作では古沢君や志摩隊長に「先生」と
慕われ圧倒的なヒーロー感を漂わせるも、
全 然 出 て こ な い ( ゚д゚)

 

いや、名前はわりと序盤から出てきます。
ところが彼がようやく姿をあらわすのは
なんとまさかの危機迫る物語の後半P175。
これには誰でも肩透かしをくらうでしょう。

 

文庫化前の講談社BOXから刊行されたときのタイトルは
『踊る人形 名探偵三途川理とゴーレムのEは真実のE』
と“三途川理”の名前がサブタイトルに明記されています。

 

タイトルに名を刻む“名探偵”でありながら、
物語には後半までまったく登場しない三途川。
だからといって影が薄いのかというとそうではない。

 

彼の本作における使いかたは、
過去作既読・未読に関わらず、
読者の予想をおおいに裏切ってくれます。

 

 

 

ちなみにこのシリーズ、

 

・第1作:化けネコが主人公(!)。
・第2作:“反則の探偵”と2人の探偵の推理バトル。
・第3作:恐怖の人形男を相手に作者と知恵比べ。←NEW!

 

なんとシリーズでありながらすべてが違った作風!

 

今回特に作風がガラリと変わったので、
作者の引き出しの多さに心底驚きました。
しかもどれもまんべんなくおもしろいとか…。

 

 

 

現実と非現実の融合ミステリー。
名探偵の“常識”を無視した三途川理。
シリーズでありながら毎回異なる作風。
森川氏は固定観念をぶちこわす天才だと思います、素敵。

 

 

 

私の「先生」


 

ここまで書いてみると、
なんだかとっつきにくそうな小説に見えますが
むしろすごく良心的なミステリーだと思います。

 

誰が悪役で登場人物は今どんな状況なのか。
探偵役(と読者)はなにを推理するべきか。

 

丁寧に引導をわたしてくれますし、
謎解きの先生、あれだ、レイトン教授的な(笑)。
もちろん最後にはしっかり驚かせてくれるお茶目さも。
三途川が古沢君たちの先生なら森川氏が私の先生です。

 

 

 

文庫にはさまっていた広告で知りましたが。

 

シリーズ第4作目、
『ワスレロモノ 名探偵三途川理vs思い出泥棒』
が3月18日にすでに刊行されていたようですね。
今度はどうやって読者を驚かせてくれるのか楽しみです。

 

もちろん私はこちらも読む予定です。
読了したらまた感想を書かせていただきますよ。
気になった方はそれまでにこの作品も要チェックです!

 

Ranking
Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。