【特集】梅雨だからこそ読みたいホラー3篇
2016年6月11日
今月5日、
気象庁が「関東甲信地方が梅雨入りしたとみられる」と
発表したそうでいよいよ湿気の季節がやってきましたね。
みなさんは梅雨は好きでしょうか?
私は雨は好きなのですがどうも低気圧がダメで。
重たい頭痛になってしまうので苦手なんですよ。
夏になるとよくテレビ番組などでは
心霊特集が組まれたりしますけれど、
ホラー小説に限ってはむしろ梅雨が
旬なんじゃないかと思うんですよね。
夏の暑さはカラッとしていますけど、
梅雨の暑さは湿気でムシムシしていますから。
映像や聴覚の即効性のある恐怖に対して、
想像力でじわじわ攻めてくる活字ホラーの
恐怖スピードは後者のほうが断然効き目が
あって雰囲気も合うしきっと相性いいはず。
というわけで、
今回は梅雨のジメジメ暑いときに読みたい、
じんわり迫る静か系ホラー小説を3篇厳選!
幽霊が出てこないおはなしを選んだので、
私のようにオカルトがダメな方でも安心(たぶん)。
恐怖よりも異様な雰囲気で魅せるホラーをとくと見よ!
※以下で紹介するおはなしはすべて短編集のうちの1篇です。
※短編集1冊の感想・個人的評価ではないことをご了承ください。
動物の命は人間の身体の中で恐怖となる
もしも言葉を話すブタに「私を食べて」と言われたら、
彼女を食べることは彼女の命の尊厳になるのか――。
最近読んだ思考実験の本に登場するおはなしです。
みなさんだったらこの問題をどのように考るのでしょう。
雀野日名子氏『トンコ』に収録された表題作は、
なんと養豚場から運搬途中だった1匹の豚が主人公。
運搬トラックの横転事故をきっかけに脱走してしまうおはなし。
彼女が主人公であるかぎり、
我々人間は彼女の〈捕食者〉であり、
我々人間の日常は彼女の恐怖と驚異の対象となる。
幽霊は出てきません。
超常的なことも起こりません。
養豚場の豚が脱走した、
ただそれだけのことを淡々と描いています。
それだけのことですが、
我々の現実のおはなしでもあります。
事実に勝る恐怖など他にあるでしょうか。
個人的には記憶に残る屈指のトラウマ本。
読んでしばらくはお肉が食べられませんでした。
今思いだしてこう書いているだけでも冷や汗が…。
でも大切なのは事実から目を背けることではなく、
こうしたきっかけから事実と向きあうことですよね。
日常がまるごと恐怖になる。
衝撃的で新感覚な恐怖を、ぜひ。
植物の意思は人間に悪夢を魅せる
幽霊の正体見たり枯れ尾花。
有名な言葉ですね。
ちなみに「尾花」とはススキの穂のことだそうです。
幽霊だと思ったら植物だった。
ああ、なんだよかった…なんて本当に言えますか?
幽霊にも負けない、
美しくもおそろしい植物のおはなしがこちら。
倉狩聡氏『かにみそ』に収録された「百合の火葬」です。
百合に魅せられ、
百合を植えた人間がおかしくなっていく。
恐怖の百合は植物の本能によって増殖する。
殖えたい、生きていたい…人間よりもまっすぐな本能によって。
植物をホラー小説の題材にするのって珍しいですよね。
(単純に私がホラー小説に疎いだけかもしれませんが)
植物だからと侮ってはいけません。
繁殖スピードとか人間の陥れかたとか意外にもエグい。
百合を分けてもらった結衣姉の変貌ぶりは結構トラウマです。
動物ってまだ表情や仕草があって、
憶測ですがおおよそ意思を理解できるじゃないですか。
植物ってその点判断材料が少なすぎて怖いんですよね。
生命活動はしているのになんだか妙に無機質に見えて。
植物が見たことのない恐怖になる。
美しくもどこかグロテスクな恐怖を、ぜひ。
こちらはMugitterに感想記事をUPしています。
興味がある方は表題作「かにみそ」と合わせてご参考までに。
http://13.114.91.99/2015/11/01/kanimiso/
自分が恐怖そのものになっていく
このテの話をするときって、
「結局生きてる人間が1番怖いよな!」
と言いだす人が必ず1人はいますよね、ええ、私です←
そんな人間最恐派のみなさんにこちら!
宮ノ川顕氏『化身』から表題作をどうぞ!
まさに悪夢だった。
はるか南の島の生い茂る熱帯雨林の真っ只中で、
地図にも載っていないような池に落ちたきり
上がれなくなってしまったのである。
これ、物語2ページ目の1行目の文章です。
開幕からいきなり絶望的な風景描写すぎる…。
この危機的状況に
主人公はどう立ちむかうかというと、
ここでタイトルにもなっている〈化身〉の言葉。
彼は“進化”するんです。
なにそれ格好良い!…と思いますか?
たとえば自分の身で想像してみてください。
指と指のあいだに“水かき”ができるところとか。
なにそれ気持ち悪い!…と今度は思うかもしれません。
しかし“水かき”があれば池の魚を効率よく捕食できるのです。
我々に同じことができるでしょうか。
彼は、生きのびるために、望んで進化するんです。
その進化の過程たるやなんと生々しいこと。
作者本当に進化したことある…?ってぐらい緻密な描写。
生きるために人間であることさえを辞めようとするその姿。
恐怖、異様、不気味さを通り越して神秘的ですらあります。
たとえば幽霊もそうですが、
人の“死”で恐怖を描くホラーは数あれど、
人の“生”で恐怖を描くホラーがあろうとは。
自分自身が恐怖になる。
異様で不気味、でも、神秘的な恐怖をぜひ。
怖いだけがホラーじゃない!
以上、
梅雨のジメジメ暑いときに読みたい、
じんわり迫る静か系ホラー小説3篇でした。
いかがでしたか?
今年の梅雨を一緒に過ごしたい小説は見つかったでしょうか。
ホラー小説というと、
幽霊や不気味な怪奇現象が怖いというイメージがありますが、
実際には幽霊や怪奇現象や「怖い!」だけではないんですよね。
恐怖の形は人それぞれで、それだけホラー小説も種類が豊富。
あなたにとって怖いものってなんでしょう。
動物?植物?人間?…それでもやっぱり幽霊でしょうか?
今回紹介した3篇は、
怖いだけではなく私たちがむきあうべき
テーマが同時に描かれたおはなしなので、
雨音の中でじっくりそういったテーマと
むきあってみるのもいいかもしれません。
それでは、
気になる小説で梅雨支度を済ませたところで。
今年の梅雨を一緒にトコトン楽しみましょう!