知念実希人氏『仮面病棟』を読了しました。
昨年は苦手なジャンルにも
積極的に挑戦するようになった年だったので、
今年はもっと読める領域を広げていこう!と、
既読の作家の他作品にも手を伸ばしてみました。
ピシッとした文体にゴリゴリの医療ミステリー。
こういうの海堂尊氏のバチスタシリーズ以来か?
なつかしいな、あれ、読んだの何年前だったっけ――。
療養型病院に
ピエロの仮面をかぶった強盗犯が籠城し、
自らが撃った女の治療を要求した。
先輩医師の代わりに
当直バイトを務める外科医・速水秀悟は、事件に巻き込まれる。
秀悟は女を治療し、
脱出を試みるうち、
病院に隠された秘密を知る――。
そして「彼女だけは救いたい……」と心に誓う。
閉ざされた病院でくり広げられる究極の心理戦。
迎える衝撃の結末とは。
※あらすじは実業之日本社HPより抜粋しました。
http://www.j-n.co.jp/books/?goods_code=978-4-408-55199-9
私は知念氏の作品は天久鷹央シリーズから入ったクチで、
本作はあちらにはさまっていたチラシがきっかけでした。
「天久鷹央シリーズ」は
病院の明るい側面、表の部分を書こうとしています。
患者さんと接し、診断を下す医療の現場ですね。
他方、
『仮面病棟』では病院の裏の顔、
医療の負の部分に踏み込んでいます。
こんな、
まるで対になっているかのように言われたら
シリーズ読んでいる手前、読まざるを得ない。
どちらかを「面白い!」と思っていただけたなら、
ぜひもう一方も手に取ってもらいたいですね。
知念氏の術中に見事ハマるまさに読者の鑑。
正直、
真相はおおかた予想どおりだったのですが
伏線のさりげなさや序破急のテンポは秀逸。
ここらへんの基盤がしっかりしてあるから、
どんな作風になっても読みやすさと安心感があるんですね。
本作はそんな知念氏の振り幅を味わえる1冊でもありました。
個人的に印象深かったのはやはりラスト。
「物語」としてのメリハリがあってすごくいい。
秀悟が最後ああしたのにはリアリティも感じるんですよね。
私が彼だったとしても最後はああなってしまったと思うし。
前々から思っていたことではありますが、
知念氏の作品は誠実なところがなにより魅力的。
本作P209~212あたりで感じたことですが、
物事の善し悪しをスパッと端的には書かず、
あくまで中立の視点で両者の意見を書きならべて
読者自身がこの問題にむきあえるようにしてある。
インタビューなんかを見ても
読みやすさや舞台設定などに
工夫を凝らして書きあげているようですし、
私は知念氏が150%良い人だと信じて疑わない。
結局、
ピエロとは誰のことだったのでしょう。
ピエロの仮面をかぶり
病院に籠城した男はたしかに「ピエロ」です。
だけどあのときピエロだったのは本当にあの男だけだったでしょうか。
秀悟、愛美、田所、東野、佐々木。
私にはみんな、
悲しき道化のように見えてならないんです。
誰もが〈なにか〉に踊らされていたように。
P314(L11)、
真相にたどりついた秀悟は自嘲しますが、
秀悟、きみよりもっとあわれで滑稽な人があそこにはいたはずなんだ。
ところで、
ピエロに似たキャラクター(?)にクラウンというものもあるそうです。
クラウンとピエロの細かい違いは
メイクに涙マークが付くとピエロになる。
涙のマークは馬鹿にされながら観客を笑わせているが
そこには悲しみを持つという意味を表現したものであるとされる。(Wikipedia「道化師」より抜粋)
ピエロの特徴といえば
赤くて丸いあの鼻だと思っていましたが、
「悲しみ」という感情もまた大きな特徴なんですね。
あの晩の悲しみをごまかすように、
彼らはまた日常に戻り、日々のあわただしさに踊らされ、そして――。
あの晩を、いつかは忘れるのでしょうか。