先日「アフォーダンス」という言葉を知りました。提供する側から使いかたをaffordする(与える)という意味で、人間と物との関係性を考えるうえでとても重要なことだそう。優れた道具は皆「こう使ってください」という働きかけが明確なのです。
このアフォーダンスを当ブログにも応用しようとブログの方向性や特色、強みなど考えてみた結果、Mugitterとはなんなのか。という 迷走 哲学に落ちつきました。毒を食らわば皿までと思い(?)性格診断もいくつかやってみたのですが中二病であることを再認識させられただけでした。うるせー!INFJ型はロマンなんだよ!
自分のことさえわからないのに、人のことなんてわかりっこないですよね。住野よるさんの『よるのばけもの』を読んでつくづくそう思いました。
月面のプールで夢を見てた
夜になると、僕は化け物になる。寝ていても座っていても立っていても、それは深夜に突然やってくる。ある日、
化け物になった僕は、忘れ物をとりに夜の学校へと忍びこんだ。誰もいない、と思っていた夜の教室。だけどそこには、なぜかクラスメイトの矢野さつきがいて――。
※あらすじは双葉社による特設サイトより引用しました。
http://www.futabasha.co.jp/introduction/2016/NightMonster/
歳を重ねるにつれて青春小説には食指が動かなくなってきているのですが、a flood of circle の「月面のプール」という曲を“主題歌”に作品の構想を練ったという対談記事(※)をたまたま読みまして、これは読まねばなるまい!と思ったのがきっかけです。
※参照:
佐々木亮介(a flood of circle)×住野よる(「よるのばけもの」作者)
バンドマン×小説家のシンクロする思い
http://natalie.mu/music/pp/afoc07
a flood of circle「月面のプール」:
小説の主題歌決めるのって本当楽しいですよ。私も2016年版プレイリスト作ったし2017年版も更新中ですもん。
ファンタジーというにはリアル味が強く、カーストというには露骨にグループや階級が登場するわけでもなくて、ジャンルを問われると表現に困ってしまう不思議なテイストでしたね。住野さんの小説はこれが初ですがこういう作風の作家なのでしょうか。
主人公に青臭さがあって個人的にラストがスッキリしない展開ではありましたが、青春小説ながら主要人物たちの腹の底をさぐってみたり、曇天のようなクラスの空気やときには主人公(読者)の思いどおりにならないピンチの場面など目がはなせないコンゲーム的な要素があって読後の考察がはかどりました。
P109の矢野さんの真意が想像できたときは、主人公の言葉を借りるならそれこそまさに「うぞうぞと蠢く黒い粒」が背中を這うような感覚がしました。
本当の化け物は誰だったのか
読後の率直な感想は、なにより笠井がこわい、この一言に尽きます。
いじめの標的である矢野さんは例外として、消極的だったり寡黙な登場人物が多い中で彼は陽気なムードメーカーとして描かれているのですが、初登場から直感的に「あ、嫌だな」と嫌悪と恐怖がありました。
本編に深く関わる部分の話になるので彼に対する考察はここでは書かないことにしますが、彼の立ちまわりのよさは白岩玄『野ブタ。をプロデュース』の主人公・桐谷修二を彷彿とさせます。修二より質が悪いかもしれない。
化け物って、本当はなんのことだ。
(P230/L12より引用)
バケモノ、と聞いてみなさんはどんなものを想像しますか?得体の知れない姿でしょうか。醜くおそろしい顔でしょうか。姿形のない見えない“なにか”でしょうか。
口裂け女がマスクをしているように、化け物のみんながみんな露骨に化け物の姿をしているとはかぎりません。結局、笠井が一番の化け物のように見えるんです。笠井の人物像に関する考察は機会があれば別で記事を書きますね。
追記:考察記事ができました!こちらからジャンプできます。
知らない 知りたい 知らなくてもいい
古くは魔女狩りなど、人間は知らないもの・わからないもの・敵わないものは、思想の逃げ道として〈化け物〉のせいにしたりしました。
奇妙な姿をした化け物の姿は、自分の意見をもたない、よくわからない、主人公の〈自己〉を具現化した姿だったのかもしれません。
高度な知能を授かった人類にとって「知らない」ということはときとして恐怖なのです。
「考え、てることなんて分、かるはずない」
(P226/L4より抜粋)
けれど、
「知りた、い」
(P215/16より引用)
キャラとコミュ力。たったそれだけが人間関係、ひいては、人生すら左右する現代社会。みんな、私、僕、俺のこと、どう思っているの――?夜休みの学校で響くチャイムが私には無数の化け物たちの迷える咆哮のように思えました。
高橋優「少年であれ」という曲にこんな歌詞があります。
分からない悩みならば 分からなくて別にいい
高橋優「少年であれ」:
この詞に、歌に、私は何度救われてきただろう。
恐怖心が悲しい化け物を作るなら、知らないことを知らないままでいることも、あっていいと、思うんです。
今を生き延びることだけを考えていいはずなのです。人間は決して特別な存在ではなく、他の動物たちと同じように、食べて寝てをくりかえすただの生きものであるはずなのだから。
2017年8月9日に加筆修正しました。