ポピュラーなトランプゲーム、神経衰弱。
「神経衰弱」という名前、
子供の頃は神経が衰弱するほどだろうかと
その由来を不思議に思ったものですけれど、
先日Twitterでとんでもない神経衰弱を見ました。
その名も「QR衰弱」。
あのQRコードでペアを見つけていく神経衰弱です。
これほど「神経衰弱」の名にふさわしい神経衰弱など他にあるでしょうか。
あるとすれば、
自らの生死が懸った神経衰弱ぐらいでしょう。
しかもその神経衰弱が“絶対に”勝てない神経衰弱だったら――。
森川智喜さんの『トランプソルジャーズ 名探偵三途川理VSアンフェア女王』読了です。
史上最凶の姉弟ゲンカ、開始!
アンフェア女王の独裁により、平和が失われた魔法の国。
ここでは、
意思を持つトランプを使ったゲームによって処刑が決定されてしまう。
善良なる時計屋のウサギ・ピンクニーは、
店に迷い込んできた少年・三途川理を助けてやったとばっちりで、
この「絶対勝てない」トランプの決闘に挑むことになってしまい……。
冷酷無比な俺様少年、〈名探偵三途川理〉シリーズ、最新作!
※あらすじは講談社タイガHPより引用しました。
※講談社タイガHPではプロローグを立ち読みできるようです。
http://taiga.kodansha.co.jp/author/t-morikawa.html
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前回に引きつづき〈名探偵三途川理〉シリーズです。
前作および前々作の感想記事もございますのでぜひご参照ください。
勘のいい人なら
今作のモチーフが『不思議の国のアリス』であることは
すぐにピンとくるかもしれませんが、…侮ることなかれ!
名探偵三途川理(10)にかかれば、
不思議の国だろうがアンフェアだろうがおかまいなし。
彼らを上まわるわがままイカサマ冷酷非道のかぎりで
かわいらしいファンタジーの世界をめちゃくちゃにしてくれます。
そして、
今回の敵はなんと姉・三途川数(かぞえ)。
「そういや……よく見りゃ……
こいつの顔、こいつの目、似てる……似てる!
あの女に! あのときの、派手な化粧をした
性悪の女ギツネ……!! あ、あ……あああ……」(『ワスレロモノ 名探偵三途川理 VS 思い出泥棒』P344/L18~P345/L1より引用)
前作の最後ユイミにここまで言われ、
かの〈三本指の悪魔〉を生みだした彼女なのです。
ざっくり言ってしまえば、そう、
今回のおはなしは“不思議の国”を舞台に
偶然やってきた異界の姉弟がくりひろげる
なんでもありの最凶の姉弟ゲンカのおはなしなのです。
こんなひどい話ってありますか?
不思議の国、完全にとばっちりじゃないですかヤダー。
この世界に“絶対”は存在するのだろうか
「わかります! 絶対絶対勝てませんよ!
絶対絶対絶対絶対無理です!
たとえ奇跡が起こっても勝てません! いまやもう絶望しかないのです!」(P45/L18~P46/L1より引用)
今作の主人公は
不思議の国の住人・ウサギのピンクニーですが、
「絶対無理」となんでも簡単にあきらめてしまう、
という点で自分によく似ていて親近感のあるキャラクターでした。
一方、ことあるごとにぎゃあぎゃあと騒ぐピンクニーに三途川は、
「勝手に負けにするんじゃない」と“蔑んだような目”で言います。
三途川は冷静で冷酷で冷血で、
名探偵にして悪魔のような男ですが
今回この“蔑んだような目”にはハッとさせられました。
「絶対」という言葉は
希望と暫定的な言いまわしではないかと私は考えています。
万物に保証がないとなれば、
私たちはたびたび不安にかられます。
だから「絶対(~であってほしい)」という希望の言葉にすがる。
あるいは途方もない「かもしれない」では収拾がつかないので、
ときには暫定的に“こうだ”と決めつける言葉が必要になる。
それだけの、
便宜上の言葉なのだと思うのです。
「(略)勝てない勝てない、
絶対に絶対に勝てない、ってそう思いこんでいるんだもの。
そりゃ勝てないさ」(P59/L13~14より引用)
「絶対」は存在しない。
フィクションの世界だけでなく、
それはリアルの世界にも言えることなのではないでしょうか。
勝負(ゲーム)の必勝法?
負けず嫌いで完璧主義。
バカ正直で顔に出るし、おまけに運も悪い。
私はそんな人間なので、
勝負事に勝ったためしがほとんどありません。
身近にドクターマリオがめちゃくちゃ上手い人とか
詐欺師並みにハッタリや駆け引きが上手な人がいますが、
彼らがそろって言うのは「ゲームなんだから」という言葉。
勝負である以前にゲームとして楽しみなさい、と言うわけです。
「高見で楽しみ、お試しでお楽しみ」と、
思えば三途川も勝負をいつも楽しんでいました。
勝負である以前にゲームとして“楽しむ”。
なるほど、これもゲームの必勝法の1つなのかもしれませんね。