泉ハナ『外資系秘書ノブコの オタク帝国の逆襲』を読了。3作目が刊行されているの知らなくて書店の平積みで偶然見つけて購入した次第ですが、前作までとタイトルのつけかたが微妙に異なるし、表紙のイラストもいきなりガラリと変わってしまったので第一印象は「パチもん…?」レジに持っていくまでに何度も著者名と出版社確認しました。本物でした。『外資系オタク秘書 ハセガワノブコの〇〇』というタイトル勢いがあって好きだったのになぁ。カスヤナガト氏の表紙イラストも。

 

 

 

推しには幸せになってほしいの

何かにアツくなれる人生は最強に楽しい! 外資系銀行秘書ノブコはオタ友の裏切り、職場のレイオフ旋風せんぷうでの傷心を乗り越え、復活しようとしていた。愛するアニメ『バイファロス』のスピンオフ映画化の一報を受けたのだ。だが、資金面で難航していると知り……ノブコが! 従兄弟いとこタツオが! 映画のためにすべてをささぐ、これぞオタクだましい! 共感&感動必至の猛烈もうれつオタ活動!!

 

出典:http://www.s-book.net/plsql/slib_detail?isbn=9784396343729

タイトルと表紙、謎のマイナーチェンジに動揺したものの、あらすじを読んで安心。これこれ。このちょっとクサくて残念な猪突猛進型ハイスペックオタク・ハセガワノブコが見たかった!

 

ところが、安心したのも束の間、しょっぱなから主要人物もそうじゃない人物も一緒くたに紹介された「“主な”とはなんだったのか」と思わず口にしてしまう総勢36人の【主な登場人物紹介】を読まされたり、ノブコらしからぬ妙に説明文じみた口調で1章丸ごと“これまでのあらすじ”に費やされたり、序盤から得体の知れない違和感がもにょもにょとまとわりつく。こんなだったっけ。

 

あらすじでメインに取りあげられている〈『バイファロス』スピンオフ映画化〉の騒動はじつは最後の最後、300ページ以上読んでやっと登場します。それまでにノブコのまわりでは公私ともにさまざまな事件が起きるわけですが、今作は仕事――ひいては人間関係というオタク活動以外の部分に焦点が当たっているようで、もちろん主人公・ノブコの姿勢や軽快な文章は変わらないので楽しく読めるんだけど、うーん、個人的にはみんなとわいわいオタクをやっている元気なノブコをもうちょっと見たかったな。

 

「いや、だから、全部想像でいいんですって! リアルなんていらないの! 恋愛とか結婚とか妊娠とか、そういうリアルはいらないの! リアルじゃないから、我々は萌えるの! 私たちは、想像して、見てる立場であることが幸せなの!(後略)」

(P158/L9~13より抜粋)

 

これはノブコがメガネのインテリ外国人男性にむかって腐女子のなんたるかを熱弁している場面での彼女の言葉だけれど(気になったら小説を読もう!)、好きなものにかこまれて、好きなことだけをして、そういう生活が簡単には手に入らないこと、そして幸せばかりではないことは、もちろんわかっている。わかっているけれど、ノブコとこのシリーズの一ファンだからこそ、私、彼女が楽しそうにしているところをただただ見ていたいの。推しには幸せになってほしいの。好きだから。それが私の幸せだから。――おっと、私の中の主にハロオタ的な部分が爆発してしまった。失敬。

 

 

 

どうだこれがオタクの底力!

散々言いましたけど、私がタイトルやら諸々の予期せぬ変化に動揺してしまったのを最後まで個人的にグダグダ引きずっていただけで、全体的には相変わらず、読ませて、考えさせてくれる1冊でした。まさか自分のオタクスタイルが仇となってしまうとは…。最近のハロプロの動向を見ているうちにすっかり保守的なオタクになってしまった。これはいけない。ノブコやタツオのように自分を見失わず臨機応変に立ちまわれるハイスペックオタクを目指して精進します。

 

居場所はそこにいるみんなでつくりあげて分ちあうもの、と語ったポール、前日めちゃくちゃ仕事がんばって満を持して(※仕事は終わらなかった)念願のアキバに降りたちはしゃぎまくるセドリックとエンダー、レイオフ旋風を冷静に、そして前向きに考え、ノブコにも助言をくれたクールなオーレ。今作は海外勢がイケメンでオタくて最高に萌えた。まぁ推しメンはハセ君だけど。ハセ君とソウルブラザーになりたい。

 

先月結構がんばってしまったので、燃えつき症候群じゃないけど、2月になってから読書ペースが落ち、なんなら本著も熱のこもった感想が書ける気がしないから記事を見送ろうかなと思っていたのですが、「好きなものに人生すべてを捧げよ!」という帯文句につられてここまで感想を書いてみました。文字数1848。なんだ思ったより全然書けてるじゃん。どうだこれがオタクの底力!

 

じゃ、そろそろスマホで「クラッシュフィーバー」やる時間なんで失礼します。オタクに暇なし。

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。