花は小説ほどにものを言う -『カーテンコール!』を考察する-
2018年3月1日
!ネタバレ注意!
本記事は加納朋子『カーテンコール!』を独自に解釈した考察記事です。ネタバレとなるワードを使用した箇所がございますので作品を既読されている方またはこれを承諾する方のみ読むことを推奨します。また、記載される考察はあくまで筆者個人の意見です。以上のことに同意していただける場合のみ記事をお読みください。 |
加納朋子『カーテンコール!』の表紙に描かれた華やかなひまわりのブーケ。「ワンダフル・フラワーズ」のクライマックスで角田理事長が生徒たちへひまわりの花言葉を贈ったことから、なるほどこのひまわりは補習合宿に参加した生徒たちを象徴しているのだな、と合点がいったら他の花やブーケの構図そのものにもなにか意図があるのではないかと勘ぐってしまったので考察記事にしてみました。表紙を見ながら考察している最中、目はシパシパするし、くしゃみはとまらないし、鼻水は出るしとすさまじい花粉症でした。絵から花粉が飛んでいる…?活字からも花粉が飛ぶ可能性があるので花粉症の方はマスクなど対策を万全に整えてからお読みください。
9本のひまわりの配役
まず最初にブーケの主役であるひまわりについて考察していきましょう。
ひまわり
前述したように角田理事長が卒業式に生徒たちへひまわりの花言葉を贈っていることから、表紙の9本のひまわりは本著の主人公--桃香、朝子、夕美、真実、千帆、茉莉子、夏鈴、菜々子、の9人だと考えられます。私が思う具体的な配置がこちら。
イラレ技術が乏しいため画像がなぜか右寄りだけど気をとりなおしていきましょう。左下に、明らかに生気を失いかけているひまわりが1本あるのがおわかりでしょうか。これは“死にたがり”の玲奈の象徴化で間違いないと思います。
さらにその右手にあるひまわりも、花びらに注目してみると、他に比べややしおれかけているように見えます。これは“死にたがり”とまではいかないまでも拒食症により生命力に危険信号が出ている茉莉子を象徴しているのではと考えられます。彼女が登場する短編のタイトルは「鏡のジェミニ」。彼女と同じ方向をむき、配置的にも似通った構図のひまわりが茉莉子と“鏡あわせ”の千帆なのでは?
同じく対のように見受けられるひまわりがもう一箇所。赤いひまわりの右上にならんでいる2本です。頭上に百合が配置されていることから、おそらく、これは眠り姫コンビの朝子と夕美じゃないかなぁ。「永遠のピエタ」にて真実が2人の百合小説を書いていました。彼女たちの頭上に〈百合〉を思い描き、空を仰いで空想に精をだしているのが真実、と考えるのは我ながらなかなかおもしろい解釈。
赤いひまわり
さて、ひまわりはじつは色によって花言葉が異なるんだそう。赤色のひまわりの花言葉は「悲哀」。黄色のひまわりとはまた違った意味があります。この1本だけ異質なひまわりは、トランスジェンダーの桃香か、あるいはシングルマザーであり妻子ある小児科医に恋をしている菜々子のいずれかを象徴しているように私は感じました。
しかし、桃香の象徴化ではないかと思われるひまわりはこの他にもあり、それが、赤いひまわりの左上にあるひまわり。
そのさらに上にあるつぼみのひまわりを見つめているような構図。ひまわりが萌木女学園の生徒の象徴であるとすると、つぼみのひまわりは萌木女学園の生徒だが花を咲かせられなかった(卒業できなかった)生徒--角田理事長の孫娘・美園を象徴しているのではないでしょうか。萌木女学園の生徒たちに囲まれながら、ここにいるはずだった美園を想う桃香。うん、こう考えるのが自然かもしれない。
とすると、件の赤いひまわりはやはり菜々子だろうか。消去法で彼女に次いで大きく咲いたひまわりは夏鈴ということになります。主役級の位置にあるこのひまわりが夏鈴なのか、夏鈴でいいのか、自分でも正直あまりしっくりきてはいないんですけどね。うーん。
脇役による演出の真意
ブーケにはひまわりの他に4種類の花が束ねられています。これら脇役たちにもなにか意味があるような気がするのでいろんなサイトを参考にしつつ考察してみます。
1.百合
表紙のような白い百合の場合、花言葉は「純潔」「威厳」になるようです。聖母マリアに捧げられた花であることから〈純潔〉のシンボルとされ、また、「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」というように女性を象徴する花なので深く意味を考えなくとも物語にふさわしい花といえますね(※1)。
妙なのは、ひまわりとならぶ大きな花であるにもかかわらず、隠れるように1本ぽつんと添えられている点。フラワーアレンジメントなどには明るくないのだけれど、それでも、なんか妙な気持ちがしたので調べてみたら1本の百合には〈死者に捧げる〉意味があるとされ、もしや、これは失意の末に亡くなってしまった角田理事長の姉を象徴している…?(※2)
前述した真実の百合妄想とのダブルミーニングだったらおもしろいですね。
2.ピュアブルー
赤いひまわりの左下にひっそり添えられている青い花。丸みのある花びらと中心が白くなっていることからオキシペタムルという花の一種であるピュアブルーではないかと推測しました。
花言葉の「信じあう心」は聖母マリアに由来し(※3)、聖母マリアに捧げられた花・百合とともに束ねられていること、「永遠のピエタ」という作品があること(ピエタ:キリストを抱く聖母マリアの彫刻などを指すもの)との関連性も考えられます。
また、花嫁がなにか1つ“青いもの”を身につけると幸せになれる、という欧米の古い風習〈サムシングブルー〉の要素として結婚式のブーケに活用されることから(※4)、卒業後の未来に幸福があらんことを、という萌木女学園側の願いがこめられているのかもしれないな、と。
3.カモミール
デイジーと迷ったけど、花びらの横幅の大きさや花言葉のマッチングも考慮してここはカモミールと予想。花言葉は「逆境に耐える」「苦難の中の力」(※5)。作品の雰囲気を考えるとデイジーよりも自然かな(白のデイジーの花言葉は「無邪気」)。コーヒーもジュース類も禁止された補習合宿ではハーブティーがよく登場するし。個人的にはカモミールが「母の薬草」と呼ばれることも、寮母の松子さんや千鶴さんを連想させ、しっくりくるんだよなぁ。
4.バラ
赤色のバラだから花言葉は「情熱」「あなたを愛します」なのですが(※6)、バラは本数によっても花言葉が変わるので本数もしっかり数えてみましょう。
表のイラストだけを見るとバラは7本(※つぼみを含む)に見えるますが、どっこい、じつは画像のとおり裏へとつづく茎をたどるとそこにはさらに3本(※同)のバラがあるため、本当は10本あることがわかります。ひっかけとか。装画担当からの挑戦か。これは妄想考察ブロガーの腕がなりますねぇ…!
戯言はさておき、10本のバラの花言葉は「あなたはすべてが完璧です」(※7)。これは角田理事長が卒業式で出したひまわりの花言葉「あなたは素晴らしい」をさらに強調するようなニュアンスが感じられますね。よってこのブーケにおけるバラの意味合いとしては色ではなく本数での花言葉を当てはめるのが適切ではないでしょうか。
クラッチブーケの意図
以上が加納朋子『カーテンコール!』の表紙に描かれたブーケの考察です。いかがだったでしょうか。考察というよりも純粋に花の知識が身についただけのようにも感じますが、それはそれで損はしないと思います。部屋に花を飾りたくなってきました。春だし赤やピンク系がいいかなぁ。
ちなみに、このように花を束ね茎の部分を握るような形のブーケを〈クラッチ〉と呼ぶそうです。ウエディング界隈だと最近の流行りだそうです。ナチュラル感があるので結婚式の他にもカジュアルなパーティーなんかで使われるんだとか。形的にも彼女たちの卒業式を華やかに演出するにふさわしいブーケというわけですね。
そもそもなぜブーケ(花束)なのかというと、私も舞台関係には明るくないので知らなかったのですが、カーテンコールの際にファンが壇上の俳優へ花束をわたす文化があったようです。なるほど、ブーケのイラストはもともとは「カーテンコール!」というタイトルに由来しているのかもしれません。
ブーケ1つで相手にこれだけのメッセージを伝えることができる。花ってとてもロマンチックですね。というわけで、今回は フラワーデザインの魅力 加納朋子『カーテンコール!』の考察をお届けしました。まさかの装画考察。それではまた次回の考察記事でお会いしましょう。
◆参考にしたウェブサイト一覧
※1)https://lovegreen.net/languageofflower/p30784/
※2)https://mayonez.jp/topic/1007176
※3, 4)https://horti.jp/9390
※5)https://lovegreen.net/languageofflower/p32001/
※6)https://lovegreen.net/languageofflower/p21463/
※7)https://trend-town.info/archives/6804.html
2018年6月6日に加筆修正しました。