トーン・テレヘン『きげんのいいリス』(長山さき・訳)
読んだことないけどシャフリヤール王
ブナの樹の上に暮らす忘れっぽくて気のいいリス。知っていることが多すぎて、頭の重みに耐えかねているアリ。始終リスを訪ねてきてはあちこち壊す夢みがちなゾウ。思いとどまってばかりのイカ。チューチュー鳴くことにしたライオン。……不器用で大まじめ、悩めるどうぶつたちが語りだす、テレヘン・ワールドへようこそ!
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『ハリネズミの願い』はハリネズミを主人公に一貫した物語があったけど、こちらはリスとその友人であるアリをメインに据えてはいますが、章ごとに登場人物も物語もまちま
序盤早々(4章)にリスとハリネズミのおはなしがあり、『ハリネズミの願い』を読んでいる
「ぼくのいちばんの願いだったんだ」ハリネズミがしずかに言った。
(P16/L3より引用)
一件まったく違ったキャラクターのようでいて、熟読してみると、意外と『ハリネズミの願い』に通じるフレーズやテーマを感じる部分もあり、ハリネズミ登場シーンに関してはそういった部分を探すのもまたおもしろかったです。既読ならばぜひ。
ぼくはリス きみはだあれ?
さて、本作は一貫したテーマで感想を書くには難しい構成なので
6章
ある朝、アリがリスに「旅に出なきゃならない」と言って出立しようするのですが、
「ほんとうに行かなきゃならないの? って聞いちゃだめだよ」とアリは言った。「ほんとうに行かなきゃならないんだから」
「でも、そんなこと聞いてないよ」とリスは言った。
「うん、でもいまちょうど聞こうとしてただろう? 正直になれよ」
(P20/L4~7より引用)
上辺だけを見るとこの場面でのアリは大学生の彼女みたいなちょっと面倒くさいヤツなのですが、本書を読み終わってふりかえってみると彼のふるまいには〈死〉の気配があり(※個人の見解です)、それをふまえてもう一度このシーンを読むとほのぼのとした気持ちから一転、寂しげな空気がただよい、また違った雰囲気があります。
9章
「陰気ってなんてフクザツなんだろう!」
(P31/L5より引用)
自分が陰気になれるとは知らなかった、と一喜一憂するカメ。
19章
こちらもカメのおはなし。「自分がたしかにカメ(自分)だって確信がもてる?」とコオロギに問われ、カメは悩んでしまいます。
自分自身に向かって静かにこうつぶやきながら。「やぁ、カメ。こんにちは」
(P54/L8~9より引用)
9章の内容と併せて考えると、自分を形成するものはとてもフクザツなのだから、自分が誰なのかは自分さえ知っていればいい(それも「私は私だ!」くらい漠然としていたっていい)、誰かとわかちあう
31章
「く」という言葉しか知らないゾウがハリネズミに手紙を書きます。このやりとりがすごくかわいい!
そうすれば、なにが書いてあるか、聞こえてくるさ。
(P90/L3~4より引用)
言葉はコミュニケーションを図るうえでとても有効な手段だけれど、ときに、本心や本質を隠してしまう厄介な代物になってしまうこともある。余計な言葉など必要のない関係というのは実際にあります。あるとき知人とすべての言葉をぱぴぷぺぽにしてLINEをしたことがあるけ
44章
「もう、なにも思いつかないや」リスは言った。
(P124/L3より引用)
一方、こちらの章ではリスがアリに手紙を書いているのですがこの2匹のやりとりもまたかわいくって!上記引用のようなリスの気持ちよくわかる。私も手紙を書くのは好きなほうだけど、手紙を送りたい人にほどすでにたくさんのことを誰よりまっさきに話してしまっているから、いざ手紙を書くとなると書きたいことが見つからないだよね。リスもきっとそうだったのだと思います。それに対するアリの答えったら!素敵!久しぶりに手紙を書きたくなってしまいました。手紙を書きたい相手にはもうほとんど書くことはないのだけれど。
動物の世界はかわいいだけじゃない!
以上、いくつかピックアップしての感想でした。ほら、本当に脈絡がなかったでしょう?
個人的な見解ですが本作はおおむね〈自分〉〈友達〉〈死〉というものにまつわる寓話だったように感じます。
共感する動物や物語は読む人の数だけ異なるし、きっと、あなたにとっての特別なおはなしも見つかるはず。かわいいながらもとても奥深い作品なので、じっくり考えながら読書をするのが好きな人にはぜひ手にとってほしい1冊です。