一條二郎『レプリカたちの夜』を読みました。突然ですが、私は子
縦ブロックはやってこない
動物レプリカ工場に勤める往本がシロクマを目撃したのは、夜中の十二時すぎだった。絶滅したはずの本物か、産業スパイか。「シロクマを殺せ」と工場長に命じられた往本は、混沌と不条理の世界に迷い込む。卓越したユーモアと圧倒的筆力で描き出すデヴィッド・リンチ的世界観。選考会を騒然とさせた新潮ミステリー大賞受賞作。「わかりませんよ。何があってもおかしくはない世の中ですから」。
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あらすじからフルスロットル。まず〈動物レプリカ工
帯によれば第2回新潮ミステリー大賞を受賞した作品だそうで、まぁ当然
「え、どうして調査しなきゃいけないんですか?」
「だって工場長に指示されただろ」
「そんなの知りませんよ」
「いつもの仕事はいいから、シロクマを調査しろっていわれたじゃないか」
「工場長とは話していません。へんなこといわないでくださいよ」
(P36/L3~7より引用)
同じ空間にいたはずの同僚とまったく話が合わないし、
「ききたいことがあるんだけど」
「あれはただの製品名だっていったじゃん」
「なにが?」
「炭素、窒素、リン」
「なにそれ」
「まえもきいたじゃん」
「なにを」
(P39/L8~14より引用)
別の同僚に質問しようとすると「前にも訊いた」と怒られる。
主人公のくせに序盤から往本をまったく信用できない。なにこれ往本がおかしいの?それとも往本のまわりがみんなおかしいの?世界がおかしいの?第1コーナーをまがっても埋まらない、むしろもう清々しいほどに広がっていく、読者と物語の差。私はこの心地を知人に説明するとき
そして、これは読者の理解力や想像力によりますが、私の場合は最後の最後まで読んでも縦ブロックはやってこなかった。疑問がほとんどあんまり解決しない
伊坂幸太郎氏も帯にて『ミステリーかどうか、そんなことはどうでもいいなぁ、と感じるほど僕はこの作品を気に入っています』と言っているし、解説の佐々木敦氏までもが『「ミステリー」であるかどうかはともかくも、本作は「小説」として無類の魅力を持っている』とか言う始末なので、既存のミステリーとして楽しもうとしない、そこは前提条件として理解する必要があります。
哲学好きは登場人物の言葉に注目!
散々な言いようですがそれでも本書を推す理由は、哲学や思考実験の話が好きな私にとって、大変興味
ちょっと絵が得意なやつに絵を描かせるとかならず陰影をつけたり遠近つけたりするよね。自動的にさ。あれ、すごいむかつく。もっとほかにあるだろって。なんの発見もない。
(P71/L12~14より引用)
作中もっともシビれたうみみずの言葉。本当は15行(!)にもおよぶ長ゼリフなのですが、個人的に物語の核心を突いているなと感じたこのフレーズを引用してみました。
粒山の人間賛歌な主張の数々や工場長の自我に関する長ゼリフも読んでいておもしろかったのですが、奇しくも去年は動物の権利について書かれた難しい本を読んだので、やっぱり人間は特別な生きものではないと主張するうみみずの言葉が一番しっくりきたかな。往本を含め皆個性的で千差万別な思想を持っているので、どこかで必ず、自分なりに考えてみるきっかけをくれますよ。小説にテーマを求める人には読み応えのある作品だと思います。
なぜ〈動物レプリカ工
SF、もしくはディストピア、あるいはプロレタリア?のような雰囲気
類は友を呼ぶ
ところでサムネに使うシロクマの画像を探しているときに気がついたんですが、あ、これもしかしなくても鈴森丹子『シロクマ係長の奇跡』につづいてまさかのシロクマ小説選んじゃったんじゃ?まったく意図してなかった。偶然ってこわいね。
なかが空洞になっているのはシロクマに特徴的なものだ。内部に空気を蓄積することで断熱効果が生まれ、寒さをしのぐことができる。
(P33/L13~15より引用)
「ご存知ボクは、白熊です。白熊の皮膚は、黒いんですよー。因みに毛は、白じゃなくて透明色なのはご存知ですか? 嘘も白黒もつかないのが、ご存知、ボクです」
鈴森丹子『シロクマ係長の奇跡』(P38/L13~14より引用)
ブログに書くことを探すためパラパラ読みかえしていたらどちらも共通してシロクマの毛について語っているのを発見して偶然の一致がおもしろかったです。毛が白く見えるのは光が反射しているからなんだっけ?かたやファンタジー(自称)、かたや驚異、同じシロクマといえど物語の中でまったく違う役割を担っているのでシロクマ好きの人は2冊読み比べというのもいかがでしょうか?
次は中島さなえ『わるいうさぎ』を読もうと思っていたのですが、シロクマは離れても動物ジャンルがつづいてしまうので、予定を変更して違うものを読もうかな。