ネタバレ注意!(白字表記) 本記事には紺野天龍『シンデレラ城の殺人』のネタバレが含まれていますが、該当する箇所は白字で表記されています。ネタバレが含まれていてもかまわない場合は白字部分をドラッグすることで読めますので、任意でどうぞ。 |
紺野天龍さんの『シンデレラ城の殺人』を読みました。『錬金術師の密室』『錬金術師の消失』が好きすぎてhontoから紺野さんの刊行情報をもらっていて、お知らせが来たのでチェック。正直最初は表紙を見て児童書かな?と思ったのですが、読んで大納得。この作画でしか本作のシンデレラはありえなかったわ。装画を担当されたTSCRさんもTSCRさんですごいな。
扉絵もクライマックスの驚きを増幅させるための装置としてちゃんと機能しているし(※血しぶきで隠された文字は左右の文字間隔から推測すると「ルーナ」になりそうなんだけど文字サイズを小さくした「サイラス」にも読めるようになってるんだよねぇ……ここで「サ」と「ス」の一部分が見えることを想定して誤誘導させるためにルーナという名前を使ったんだとしたら紺野さんはマジで天才だと思う)、なぜ無関係であるはずのシンデレラが城の名を冠しているのか、というタイトルの伏線まできっちり回収していくあたり紺野天龍は一生推せる。
さて、状況を整理しますとまずシンデレラは原作どおり(?)ガラスの靴を履いて城の舞踏会へ赴くのですが、あれよあれよというまに王子様は何者かによって殺害されてしまいます。凶器はガラスの靴。シンデレラは不運にも王子殺害の容疑者として捕まってしまい、急遽設けられた裁判で被告人として追いつめられていく――。
無罪が証明できなければ明朝には断頭台。加えて0時までに城を出なければ魔法が解けてしまい招待状の偽装および不法侵入でどちらにせよ処罰されるという、主人公がシンデレラであるがゆえに、それはそれは危機的状況。限られた時間と範囲でシンデレラはなけなしの調査や必死の推理、証人喚問を行い、屁理屈疑問や矛盾点を突くことでなんとか裁判の時間を引き延ばしていきます。
頭はまわり弁は立つものの圧倒的に不利、という状況は先に挙げた錬金術師の~的で(優れた人間が苦境に立たされることでチラリと見せる人間味って好きなんだよなぁ)、一方的に推理するだけでないリーガル・サスペンスならではのドキドキハラハラ、スピード感も相まって2日読みきってしまいました。本当におもしろかった。
よくある童話パロディものと侮るなかれ。愛と魔法の物語――『シンデレラ』をあえて選び、その要素を随所に盛りこんだ珠玉のミステリー。良作です。