当ブログでは三途川理シリーズでおなじみ森川智喜さんが2020年に上梓された、三途川理シリーズじゃない長編ミステリー。
純粋に三途川理シリーズが好きな私なので正直最初はあまり期待していなかったのですが、結局、後頭部をどちゃくそに殴られた気分です。普通におもしろかった。あたりまえだけど。いや、「普通」ですらなかったな。ミステリー小説であることをフルに活かした1冊だったと思う。森川さんはあとがきで「作者としての自分には、何か精緻な設計図を作って本作を組み立てたという感覚はほとんどありません」とおっしゃっていましたが、精緻にもほどがある。
森川さんといえば、上手いからこそできる自由さというか、遊び、意図的にラノベみたいなゆるさの文章が良くも悪くも持ち味だなと思っているのですが、今回もそれが第2幕までつづくので人は選びそうです。ただ。第3幕までどうか根気よく読んでほしい。杞憂だから。第3章でようやくたどりつく「これこれぇ!」という興奮が、余裕で、それまでの評価覆すから。
私たちがこわいと感じるのは幽霊じゃない。
もちろんそれをこわがる人はいるけれど、なぜこわいのかといえば、それが幽霊だからではなく「幽霊」という「理解できない存在」だから――なのだと思う。
まるで菱子が難解な思考でもって「死」を解剖するように、その根本を、物語やそこに散りばめられたあらゆる技や装置でもって我々読者に刻みつける。そんな、やっぱりいつもどおり、一筋縄ではいかない森川ミステリーだったのでした。同じ講談社タイガからの作品というだけあって、根底にはきちんと三途川理シリーズのイズムも流れています。
行間にたえまなくただよう、違和感。
本書を閉じたときあなたがどこに恐怖を感じるのか、ああ、私は楽しみでなりません。