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「指切りげんまん」の起源が
主に遊女のあいだで流行ったとされる
愛を誓う約束だというのは有名な話ですが。

 

それより「げんまん」ってなんだ…?

 

気になったのでちょっと検索かけてみたら、
「拳万」つまり“1万回殴られる”ということらしいです。

 

針1000本飲んだあげく1万回殴られるんですよ。
怖くないですか?迂闊に約束なんてできません!

 

ところで、
子供の頃は「針1000本飲ます」の部分って
「ハリセンボン飲ます」だと思っていました。

 

ハリセンボンの針って実際には350本前後だそうです。
一方、ウニのトゲはある水族館の調べでは約2800本。
嘘ついた人にはウニの殻を半分食わせばいいですね。で1万回殴る

 

というわけで、
今回は「約束」にまつわるおはなし。
森晶麿氏『黒猫の約束あるいは遡行未来』読了です。

 

 

 

今作は消化不良だったのか?


 

 

フランス滞在中の黒猫は、
ラテスト教授からの思想継承のため、
イタリアへある塔の調査に向かう。

 

建築家が亡くなり、
設計図すらないなかで、
なぜか建築が続いているという〈遡行する塔〉。

 

だが塔が建つ屋敷の主ヒヌマは、
塔は神の領域にあるだけだと言う。

 

一方、
学会に出席するために渡英した付き人は、
滞在先で突然奇妙な映画への出演を打診される。

 

離ればなれのまま、
ふたりの新たな物語がはじまる――黒猫シリーズ第5弾

 

※あらすじは「ハヤカワオンライン」より引用しました。
http://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013356/

 

 

 

前作『黒猫の薔薇あるいは時間飛行』の感想はこちら

 

Mugitterでは
途中からの追っかけになっていますが黒猫シリーズ第5弾。
前作感想記事でも述べたとおり第1弾から読んではいます。

 

率直な感想を述べると、
正直最初はすごく消化不良だったんですよ今作。

 

Twitterで既読者の感想をざっと見た感じ、
今作で完結するんだろうなって(勝手に)思っていて。

 

結論からいうと完結しなかったわけですが、
読後改めて今作のテーマを思いかえしてみると、
しかもそれすら重要なことではなかったんですよね。

 

—–【追記】—–

 

あとでふりかえってみたら、
Twitterで見たのたぶん次作の感想でした←
このあと文庫化したこちらを購入したのでたぶん
そのとき情報がごっちゃになったんだと思います。すまない黒猫。

 

 

 

塔が示したシリーズの核


 

 

「誰もが〈からだ〉に目がくらんで
〈こころ〉までは見ようとしない。
それが芸術鑑賞の実状さ。
〈からだ〉のどこかに嘘があったと後で言われれば、
みんな怒り狂うに違いない」

 

今作で語られるのは芸術の〈こころ〉と〈からだ〉。
そしてこの一節を思いだしてふと気がついたんです。

 

シリーズ第1弾から長きにわたり読んできたこの作品を、
いつしか私は黒猫と付き人の恋愛小説として読んでなかっただろうか。

 

彼らが物語終盤で出した結論に
消化不良を感じてしまったのは、
シリーズの核をいつのまにか2人の恋愛にすりかえていて、
まさに作品の〈からだ〉ばかりを捉えているという今作の
テーマそのままの状態に陥っていたんじゃないのか、って。

 

作品の〈こころ〉はあくまで
美学の解体や解釈であってたぶん2人の恋愛模様ではない。

 

ここにきて〈遡行する塔〉が核を明確にし、
シリーズはいよいよフィナーレにむかっている…!
なんだかそんな気がするんです、また、勝手にですが(笑)。

 

 

 

黒猫、付き人、なんでも。


 

 

個人的に今作もっとも印象に残っている文章は、

 

話しているうちは、
その存在は確固としてそこにあるのに、
では何者かという話になると、
途端に幽霊のように曖昧になっていく。

 

という一節。
私はこの不安定なイメージ、
名前をもたない黒猫や付き人にも通じるものがあるなと思いました。

 

あるいは2人の距離、
おたがいの存在のようにも感じます。
このとき「何者か」というのは感情にどう名前をつけようかというもので。

 

芸術における〈からだ〉と〈こころ〉の話もしているので、
もしくは私たちの“心”を指しているような気もしますね。

 

結構なんにでも当てはまる、
普遍的で、かつ、とても深いフレーズで好きです。
みなさんはどんな不安定で大切な“なにか”を思いうかべますか?

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。