東浦の告発 -『バベルノトウ 名探偵三途川理 vs 赤毛そして天使』を考察する-
2017年6月13日
※注意※
本記事では
森川智喜『バベルノトウ 名探偵三途川理 vs 赤毛そして天使』
東浦のダイイングメッセージ(3つの点)について独自に考察/解釈しています。
作品の結末等ネタバレになることは書いてありませんが
具体的なページ表記があるなど既読を前提に書かれておりますので
作品既読の方またはこれを承諾する未読の方が読むことを推奨します。
また、本記事に記載される考察はあくまで筆者個人の意見です。
上記に同意していただける方のみ続きをお読みください。
ダイイングメッセージはただの布石だったのか
「絨毯に妙な記号が残っています」
(P115/L2より引用)
結局、
作中では最後まで明らかにされなかった
東浦が残した“3つの点”のダイイングメッセージの真相。
個人的には、
「でも思ったんだけど、
書いた本人にしか、本当の意味ってわからないよ」(P257/L1より引用)
というユニカルの言葉で締めるための布石だったと考えているのが半分。
もう半分で、
この3つの点はユニカル、セネアル、ヒャヒャテル――
3人の天使を意味していたのではないか、と考えています。
(東浦にとって)誰が東浦を殺したのか
緋山はこのダイイングメッセージについて、
「けれどもおれが思うのは、
たかが三つの点で表現できる言葉というものは、
どうも単純な意味なのではないかということです。
せいぜい一つか二つの単語、もしくは単語にもならない中途半端な言葉だと思うのです」(P155/L17~P156/L1より引用)
と述べています。
ならば単純であることにこだわればいい。
すなわち、あれは言葉や記号ですらない、
見たままの光景――遠くから見たor簡略化した3人の姿だったのではないだろうか。
もし、
なんらかの理由で
東浦が屋上にいる天使たちを目撃していたのだとしたら。
必ずしも「屋上」で「天使」を「見」ている必要はない。
たとえば影であったり声であったり物音であったり、
要するに“3人の何者か”の気配を東浦が感じていたならば、
あのとき東浦が残した3つの点に意味を与えることはできます。
花谷によれば、
東浦に椿の両親の事故に対する反省の色はなかった(P220/L1)。
花谷が突然襲いかかってきても、
東浦本人にはそうなる理由がさっぱりわからなかった可能性がある。
感情x。
花谷が自分を殺すのは
自分には理解しえない“感情x”が彼に存在したからだ、と東浦は思っただろう。
ではなにが花谷の凶行を招いたのか。
東浦はすでに人が変わる瞬間を一度目撃している。
そう、椿が陥った〈言語混乱〉。
椿になにかした犯人が
同様に花谷にもなにかしたに違いない。
東浦はこれを告発するために3つの点を描いたのではないでしょうか。
天使たちは「勝ち逃げ」したのか
それに、
ユニカルが「ひれふせ!」とくりかえす場面で
このダイイングメッセージが強調されているという点も気になる。
これがお前らの知の限界だ。
ひれふせ、二本足獣ども。(P187/L1~2より引用)
知の限界につまずき天にひれふすべき「二本足獣」が、
じつは彼女の知らぬところで彼女たちの存在に気づいていた。
これまでどの主人公にも
圧勝や勝ち逃げを許さなかった森川氏なら、
今回の主人公・ユニカルにもそれぐらいの皮肉なオチをつけそう。
「人は複雑な生きものです。
外から見てわからぬ人間関係というものは、考えられないわけではありません」
とは水嶋老の言葉。
東浦と天使たちのあいだにも、
外からはわからないなにか意外な関係性があったのかもしれない。
と、ひねくれた作者のひねくれたファンは、つい勘ぐってしまうのです。