昔読んだ『文章読本 文豪に学ぶテクニック講座』
という本で「会話を構成する」という小見出しで
大岡昇平『野火』の一節が取りあげられてまして。
以前も述べたかもしれませんが、
私はいわゆる〈文学〉は苦手で
文学作品は宮沢賢治以外はもう
読みたくないほど(当時)でした。
なので『野火』についても未だ読んでませんが、
ここで紹介されたその一節が印象的だったのです。
引用された部分はすべて会話文でした。
地の文はそこにはたったの一箇所だけ。
驚きました。
地の文はないのに鮮明にイメージできるんですよ。
地の文がないことでテンポも軽快で読みやすくて。
登場人物同士の会話って難しいですよね。
会話だけでは描けないもの(動作等)もある一方、
地の文が挟まりすぎれば読者のペースを乱すもの。
特に物事の説明に用いるのは難しいです。
今回なぜそんなおはなしかというと、
高井忍氏『本能寺遊戯(ゲーム)』読了しました。
こちらが、自分の中で物議をかもす1冊でして…。
***
扇ヶ谷姫之、朝比奈亜沙日、そして交換留学生の
アナスタシア・ベズグラヤ(通称:ナスチャ)は
蓮台野高等学校に通う日本史好きの高校生3人組。
普段からあれやこれやと歴史談義をしているうち、
歴史雑誌『ジパング・ナビ!』の新説公募企画に
自分たちが導きだした〈真相〉で応募することに。
狙うは有名歴史小説家のサイン本&賞金!
本能寺の変を決行した明智光秀の動機、
ヤマトタケルと剣の行方にまつわる謎、
春日局と大奥の語られなかった〈真実〉
宇佐八幡信託事件の仰天の新説とは…。
史実重視の正統派歴史愛好家・姫之。
「いまどきの歴史ファンの女の子」亜沙日。
日本発サブカルで日本史を学ぶナスチャ。
タイプのバラバラな3人の女子高生“歴女”による
将来の真説となる(かもしれない)新解釈で歴史談義。
***
表紙がポップでかわいらしく騙されがちですが、
最初から並以上の歴史の知識を求められるので、
読書中メモをとったり資料やネットですぐさま
調べられる環境と根気で読むのが望ましいです。
タイトルには「遊戯」とありますが遊べません。
想像以上に本気の、ゴリゴリの、歴史書でした。
①文献の引用には(読み等)ほとんど解説ナシ
②言われてパッと浮かばないような人物が多数
③史実、解説、考察がほとんどで小説かは疑問
④読者を選ぶような言葉がいくつか見受けられる
以上4点が個人的には気になりました。
歴史は苦手だけどこれなら読めるかもしれない。
これをきっかけに歴史モノにも興味が出れば…。
私のように↑のような気持ちで読むには要覚悟。
私は5編中2編はメモをとり理解したのですが、
正直残りの3編は何度も挫折しかけて流し読み。
歴史ミステリーですし、
あるいは①②はこちらの知識不足を恥じるべき
なのかもしれませんが〈小説〉として見た場合
③④はどうなのかなぁ。
小説的な要素って私が感じた範囲だと、
強いていうなら「」のあとの〈○○は××した〉と
移動のときの風景描写と食事シーンだけなんですよ。
歴史抜きにすると寿司しか印象に残っていない…!
女子高生“歴女”である必要性、
小説として書く必要性が感じられませんでした。
新書や論文を読んでいるような気になりました。
この時代に知識や興味がある読者ばかりでは
ありませんからね。
大多数はあんまり知らないものと見ておいてください。
難しくなるとついてこられない。
最終話にはこのような言葉もあるのに。
それともこれはもしかして嫌味なの?( ゚Д゚)笑
文章、もとい、構成には難アリでしたが、
ただ導きだされた新解釈にはわくわくしたのです。
※以下ネタバレが含まれています。
※該当する【】内は白字表記とさせていただきました。
※読者様のご判断で反転してお読みください。
信長が【イザナミを信仰していた】とか。
明智が【出雲(出雲大社)を守るため本能寺の変を
起こしたのではないか】という新説には声出ましたし。
春日局の【世に出まわっている話は嘘】という話とか、
理解できる範囲では新説とてもおもしろかったのです。
なので、
歴史が好きで読書中メモや調べものにも
労力を惜しまず歴史上の人物や物事等々
誰かの意見を聞いてみたいという方には
おすすめできると思うのですけれども…。
私はもうこれでおなかいっぱいです。
文学史で書いていただけたら読めそうですが。