先月のことですが、
原宿で開催されていた『魔女の秘密展』に行ってきました。
魔女の定義を記した書物。
実際の拷問に使われた器具。
女性が“魔女”に仕立てあげられる過程。
展示を見てまわっているあいだ、
心のどこかで思っていたんです。
言葉とやり方が変わっただけで、
今も変わっていないんじゃないかって。
人にラベルを貼って、自分と違う人は糾弾して。
魔女とはなんだったのか。
その問いの1つの見解として、
それは、
人間の心が生みだした存在なのかもしれません。
音声ガイドの最後はこのように締めていました。
(※音声はうろ覚えなので正確ではないです)
たった1つの言葉や動作をつまみあげて、
簡単に人を人でないふうに仕立てあげる。
魔女も生みだす人間の心とやらのほうが、
案外よっぽどおそろしいなにかなのかも。
今回はそんなわけで魔女(?)のおはなし。
相沢沙呼氏『マツリカ・マジョルカ』読了です。
***
柴山祐希、高校1年。
クラスに居場所を見付けられず、
冴えない学校生活を送っていた。
そんな彼の毎日が、
学校近くの廃墟に住む女子高生
マツリカとの出会いで一変する。
「柴犬」と呼ばれパシリ扱いされつつも、
学校の謎を解明するため、
他人と関わることになる祐希。
逃げないでいるのは難しいが、
本当は逃げる必要なんてないのかもしれない……
何かが変わり始めたとき、新たな事件が起こり!?
やみつき必至の青春ミステリ。
※あらすじは文庫裏表紙より引用しました。
***
どこが魔女要素かというと、
作中で柴山がマツリカさんのことを「魔女」と
形容するシーンがあるので魔女で繋げました(笑)。
相沢氏の作品は、
結構前に『午前零時のサンドリヨン』を読んだのと
学園ミステリーのアンソロジー本に収録されていた
「恋のおまじないのチンク・ア・チンク」を読んでて。
本作もタイトルが印象的で長年読みたい本リストに
挙げていたのですが文庫化に伴いようやく読めました。
まず賞賛すべきは太もも!じゃなくて!表紙!
購入理由の90%ぐらいが表紙といっても過言じゃない
大変素晴らしい太もm…マツリカさんの表紙に大満足。
結構本気で額に入れて飾りたいくらいきれいな絵です。
本文は主人公である柴山の一人称で書かれていますが、
柴山のキャラクターも含めて好みが分かれそうな文体。
読了はしたものの私はあまり好きになれませんでした。
「……」の多用など個人的に気になるところもあります。
優しくて傷つきやすく多感な部分は
青春小説としては好ましいのですが、
ただその内面が地の文章にもにじみ、
まわりくどく湿っぽさを感じました。
しかし各話の真相と結末のやりきれなさはいいです。
青春時代のひなたと日陰をバランスよく味わえます。
読んでいて何度か泣きそうになる場面もありました。
全体で見ると評価が難しいです。
以下、各話感想もまとめました。
原始人ランナウェイ:
夕方になると現れるという原始人のおはなし。
タイトルと真相のギャップがすごかったです。
こんな落差感じたくなかった、やりきれない。
「それは、おまえが現実から目を背けたいだけ。
こんなことは、希有なできごとではない。
たとえ目の前にあるそれが幻だったとしても、
それは世界のいたるところで起こっている。
ありがちな、潰しても潰しても消えない蟻のようなもの。
どこからともなく、湧いて現れる」
人の想像力って衰えてきたなぁ、と、最近思うのです。
自分のことで精一杯で、
まわりのことを考える余裕がなくなっていく。
考える余裕がないからさらにわからなくなる。
わからないことが増えるから考えるのをやめる。
文化の発展に人類は比例しているんでしょうか。
もしかして、
あるときから反比例して退化してるのかも。
言葉も話せなかった原始人と
文明が発達し進化を遂げた現代人。
一体どちらが相手のことまで想像できるのでしょうね。
幽鬼的テレスコープ:
※ネタバレを含むため【 】内は白字表記です。
任意で【 】内を反転してお読みください。
山で抉られた目を探して彷徨う少女のおはなし。
今ふと思ったのですが「幽鬼」と「祐希」って
なにか関係あるんでしょうかね…いや、ないか。
一連の怪奇現象についての真相はもちろん
マツリカさんによって明かされていますが、
解決とは違った結末なのでモヤモヤします。
小西さんの言葉を思い出す。
レンズを付け替えることで、
見える世界が変わっていくように、
人を見る眼を変えることで、
自分自身も変わっていくことができるかもしれない。
世界が変わっていくかもしれない。
柴山のこの言葉は物語そのものにも言えることで。
たとえばこれを【秋和先輩の視点】で考えてみると。
たとえばこれを【根岸先輩の視点】で考えてみると。
同じ真相でもまったく違う角度から見つめてみると、
同じはずの顛末がそれぞれ印象の異なる話になる。
片目の少女の怪談話にもまた言えることですけど。
自分が1つのレンズであること。
人の数だけ別のレンズがあるということですね。
いたずらディスガイズ:
文化祭で消えたアリス衣装の紛失騒動のおはなし。
収録作品4篇の中では1番好きなおはなしでした。
文化祭の雰囲気もあって他よりは気楽に読めます。
読後最初の印象は「やりきれない」でした。
他でも再三言っているように収録作品全部
やりきれないおはなしではあるんですけど、
ダントツでこれが1番やりきれなかったかと。
柴山が回を重ねるごとに成長して報われている反面、
物語の真相がいつもあくまで題材で報われていない。
それってあんまりじゃないですか。
悔しくてこれはあと2回ほど読みなおしました。
読みなおして、それで、そんなことなかったかもなって。
本当は、気付いていたんだ。
本当は、知らないふりをしていたんだ。
みんなが僕のことを避けていたり、
無視していたりなんて、大きな嘘だ。
柴山が見つけた答え。
文中に埋もれている答え。
描かれていない真相のその先にも、届くといいなぁ。
さよならメランコリア:
作中何度か話に出てくる柴山のお姉さんのおはなし。
最終話にも関わらずなんだかわりとあっさりな印象。
読んでいる途中でおおよその見当がついたからかも。
好みが分かれそうな文体と前述しましたが、
柴山のキャラにハマれない人にはなかなか
入りこめないおはなしだったように思います。
私もこれは一線引いて見てしまったというか。
ごめんね柴山。
キミが嫌いなわけじゃないんだよ。
キミの気持ちや境遇には共感できる点もあるんだが…。
柴山ファンの方いらっしゃいましたら、
是非御教示ください、Twitterあたりで。
魅力とか萌えポイントとか待ってますね!←
文庫化はまだのようですが、
続編『マツリカ・マハリタ』が刊行されているそうですね。
本作は文庫で読んだので次また文庫化の時期に考えますが、
私は柴山の一人称に慣れることができるのだろうか…(笑)。
解説の中で著者について、
気弱な男子高校生が美少女と組んで
探偵役を務めるという構図は、
著者の十八番スタイルなのだ。
とありましたが『午前零時のサンドリヨン』もそうでしたっけ?
前に一度読んだきりなので確認がてらまたあちらも読もうかな。
手元にはありませんが人に文庫版を勧めたので彼から借ります。