!ネタバレ注意!

本記事は坂木司『鶏小説集』を独自に解釈した考察記事です。物語の結末など作品そのもののネタバレになることは書いてありませんが、設定や世界観などについて引用やページ表記を用いて考察しているので、作品を既読されている方またはこれを承諾する方のみ読むことを推奨します。また、記載される考察はあくまで筆者個人の意見です。以上のことに同意していただける場合のみ記事をお読みください。

 

 

最近毎日のように冷凍食品のからあげを食べているのですが、いやぁ、美味しいですよね。もちろんショウガ醤油で下味をしっかりつけた手づくりからあげやコンビニのからあげも美味しいのですが冷凍食品のからあげは独特の衣の食感や肉のパサパサ感がたまらないです。レンジであたためたふにゃふにゃ状態が至高。それをさらに油で揚げなおしてサクサクにするのもまた乙。

 

というわけで、鶏肉が好きすぎて今回、上手くもないイラレで坂木司『鶏小説集』の登場人物相関図をつくってみました。5時間の作業にまったく比例しないクオリティー。クリスマスに私はいったいなにをやっているのだろう。

 

読んでいるときにリアルタイムでメモした手描きの相関図を元に作製したので間違いはない…はず。記入漏れはあるかもしれないけど。読後のふりかえりにぜひご活用ください。

 

 

 

これが『鶏小説集』相関図だ!

こちらが独自に作製した相関図です。

 

 

図を描くのが絶望的に下手なの伝えておくの完全に忘れてた。今言います。図を描くの苦手です。そのくせ神経質だから村岡家と橋本家のあいだのごちゃごちゃしたところ虫唾がはしるし連斗からコンビニへむかう矢印のうにょうにょで発狂しそう。今どき中学生でももっとマシな図がつくれるのでは。それはさておき、相関図を描くために改めてパラパラと読みかえしたらわかったことがあるので発表します。

 

 

 

ハムとチキンがつながった

図を描くのが下手すぎて相関図には記すことができなかったのですが、「トリとチキン」の中で春紀が小学生の頃に通っていた塾について「ハムサンドばっか買うから、あだ名が「ハム」の奴」(P13/L11)がいる、と語っているので、前作『肉小説集』収録「ほんの一部」のハムくん春紀、そして春紀の塾友だった連斗同じ塾に通っていたことがわかります。

 

「トリとチキン」の時間軸では春紀は高校3年生。塾に通っていたのは「中学受験の名目で」(P11/L10)とのことなので当時小学6年生、つまり、「ほんの一部」から6年経っていることになりますね。余談ですが『肉小説集』刊行から『鶏小説集』刊行までのリアルタイムは3年経っています。

 

 

また、

 

・戸部がコンビニのレジに立つおっさんについて以下のように語っている。
①貧乏神と呼ばれている*1
②“揚げ物名人”である*2
・春紀いわく、塾の近所にあるコンビニには絶品のあげチキがある(②)。*3
・タカナこと田中の語りから貧乏神=小津店長であることがわかる(①)。*4
・おっさん(長内さん)が「近くの塾で女の子が変質者に狙われ大騒ぎになった」と発言している。*5

 

*1 「とべ エンド」P218/L10~11
*2  同上 P218/L14
*3 「トリとチキン」P14/L12
*4 「丸ごとコンビニエント」P124/L3
*5  同上 P130/L7~8

 

以上の点から、田中のバイトしていたコンビニは春紀たちが通っていた塾の近所にあり、「ほんの一部」で変質者があらわれた地点からも近い場所にあると推測されます。家の人に迎えに来てもらうのを待っていた最寄りのコンビニがここかな。変質者が捕まったのかどうかは明記されていないので、となると、鉈サンタと変質者は同一人物である可能性も。こわ。そうでなかったとしても地域の治安が悪すぎる。

 

あと個人的には、男に襲われる展開があり、なおかつ主人公が生々しい肉に魅せられる描写があることから「ほんの一部」と「丸ごとコンビニエント」には作品としての類似性を感じました。

 

 

 

「フツーがいいなあ」に見え隠れする気持ち

「井上くんって、フツーでいいなと思ったから」
雨上がりの道路に、光が反射する。空気が、またもわっと熱くなってくる。
「なんだよそれ」
「だってさ、いるじゃん。意味もなく恥ずかしがったり、カッコつけて上から目線な態度とる男子。そういうヒトだと、やりにくいから。だから、フツーがいいなあって思ってた」

(「羽のある肉」P202/L3~7より引用)

 

感想記事ではネタバレにひっかかりそうだったので書けなかった美咲についても言及しておきます。

 

美咲が「フツーがいい」と言った背景にあるのはおそらく兄・春紀のこと。「意味もなく恥ずかしがったり」の部分は連斗の家を訪問して以来春紀に芽生えてしまった家族に対する羞恥心のことだし、「カッコつけて上から目線な態度とる」のはそれをどうにかしたいとつい家族にきつくあたってしまう春紀が、美咲にはそういうふうに見えてしまうから。そんな兄のことを美咲は「ガキっぽいよ」と言ってのけます(P51/L17)。

 

だけど、美咲がそんな兄を邪険に扱っているかといえばそれは違くて、会えなくなってしまった“王子様”の連絡先を春紀に聞けないのは、連斗や家族に対して春紀が抱いていた「ピリピリ」を美咲も美咲なりに感じとっていたからじゃないかと。最終的にあこがれの“王子様”ではなく“フツー”の竜太を選んだのは、そんな兄を含め、平凡な自分たち家族が好きだからこそだったのだと私は思います。

 

春紀も『皆殺しレクイエム』の読者みたいだし、竜太と春紀はまぁまぁ仲良くなれそう。だから美咲は安心して家に竜太を連れていくといいよ。ああ、妹に減らず口をたたきつつ竜太にもちょっとちょっかいをだす春紀の姿が目に浮かぶようだ…微笑ましい。

 

 

 

次回作につながるのは誰?

以上、冷食からあげに捧げる『鶏小説集』の相関図と少しばかりの考察でした。まさか本をまたいで『肉小説集』からつながるとは思わなかった。次回作が書かれるとして、またこういうパターンがあるのだとしたら、私的には春紀と美咲の父親が怪しいです。「トリとチキン」で、最近帰りが遅い、となにやらフラグが立っているので。逮捕された鉈サンタもとい変質者(仮定)がふたたび帰ってくるのかにも注目。

 

それではまた、相関図を描く機会があったらお会いしましょう。――そのときにはイラレ技術がもうちょっと向上しているとよいのだけれど。

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。