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行成薫『名も無き世界のエンドロール』を読了。『僕らだって扉くらい開けられる』を探していたときに見つけた1冊で、同じ作者だし、デビュー作らしいし、まぁ、これでもいいかなと妥協して購入したもの。結局本命も無事見つかってあちらを読了してから読むことになりましたけどね。作品にただよう空気の重さが違いすぎる。どうした。気圧低すぎて偏頭痛になったわ。

 

 

 

エンドロールまで席を立つな

ドッキリを仕掛けるのが生き甲斐のマコトと、それに引っかかってばかりの俺は、小学校時代からの腐れ縁だ。30歳になり、社長になった「ドッキリスト」のマコトは「ビビリスト」の俺を巻き込んで、史上最大の「プロポーズ大作戦」を決行すると言い出した――。一日あれば、世界は変わる。男たちの命がけの情熱は、彼女に届くのか?

 

――文庫裏より

「ここはお前のおごりだからな。勿体もったいねえことさせやがって。ナポリタンに謝れ」
「すまねえ、ナポリタン」

(P35/L3~4より引用)

 

主人公〈俺〉とマコトのやりとりはこれぞ男同士!という軽快なノリで笑わせてくれます。なのに、彼らに終始まとわりつくのは鈍色の雲のような得体の知れない重たくどんよりとした空気。記憶の断片を織り交ぜたバラバラの時系列と淡々とした文章が一抹の不安をむくむくと煽ってくる。なにこれ。私の知ってる〈プロポーズ大作戦〉はもっと明るくドタバタやっていたのに、山Pが。

 

話は変わりますが、映画を観るときエンドロールはどうしています?エンドロールまで見届ける派?それとも本編が終わると席を立ってしまう派?昔ピクサーの映画なんかだと、エンドロールのあとにほんのちょっぴりおまけ映像的なのがあって、エンドロールが流れだしても気が抜けなかったっけ。エンドロールも作品の一部であり、エンドロールが終わっても、物語の中の世界は終わらない。――本書を読むとそんなことを痛感します。

 

本当のことをいうと、物語は最後まで登場人物たちだけで完結しており、読者は置いてけぼりを喰らうので、なにに注目すればいいのか、どこに感情を置けばいいのか、おもしろいのかおもしろくないのか、クライマックスですべてが明らかになるまでわかりません。だけど、

 

「たぶん、どうだっていいことだ、そんなことは」

(P40/L8より引用)

 

そう、どうだっていい。時系列はバラバラだし、読者置いてけぼりだし、登場人物がみんなやんちゃで現実感もあまりなかったけれど、もうそういうの全部どうだってよくなるような“エンドロール”だけが最後にずしんと待ちかまえている。これだけで私の読書の歴史に強烈な印象を残していきました。読後は新雪を靴でキュッと踏みながらひとりタバコでもふかしたくなります。タバコ吸わないけど。

 

 

 

キダとキタロー(マコト)の話

「なんかさ、キダちゃんは、もっと自分のために生きたほうがいいと思うよ」

(P129/L9より引用)

 

最近まで「ペルソナ3ポータブル」というゲームをやっていたんですけど、プレイ中「人はなぜ生きるのだろう」とずっと考えていたこと、あるいは、(RPGの主人公という特性上仕方ないことではあるけど)自分にあまり関心を持たずどこか達観した考えかた・行動をとるところから、本作の主人公・城田(「シロタ」と書いて「キダ」と読む)とP3の主人公は重なって見えていました。「キダ」と「キタロー」語感が近いからじゃないよ。しかもP3主人公につけた名前偶然にも「真琴(マコト)」だったから運命感じました。

 

上記総評のほうで思った以上に熱っぽく語ってしまったのでここに書くことがそれくらいしかありません。ごめんね。「読者に謝れ」「すまねえ、読者」

 

 

 

紙一枚隔てた世界の幸せ

本当にたまたまなのですが、先ほど「幸せなエミリー」というフリーゲームの某ゲーム実況動画を見ていました。当ブログの趣旨から逸れるので具体的な内容は割愛しますが、本作を読んだときに感じた、早見和真『イノセント・デイズ』を彷彿とさせる徹底的に他者を拒絶する“幸せ”がそこにはありました。

 

「幸せ」というものは、口当たりのいい言葉でありながら、なんて主観的でわがままなものなのでしょう。どれだけ声をあげても、手を伸ばしても、当事者が良しとしてしまえば外野はただただ無力。たとえそれが自分の考える幸せの形ではなかったとしても、大切な人の前でできることは、それを精一杯受けいれてあとは祝福するしかできない。

 

たった紙一枚の、薄くて、だけどとても分厚い壁のむこう。私の声なんか届かない世界で彼らはきっとこれからも生きていく。エンドロールのその先を。そこにどんな物語がつづくのか、本を閉じた私にはもうわからないけれど――、どんな形でもいい、きみが今、“幸せ”でありますように。

 

 

参照:

ペルソナ3 ポータブル│アトラス公式サイト:https://www.atlus.co.jp/title-archive/p3p/

幸せなエミリー:無料ゲーム配信中! [ふりーむ!]:https://www.freem.ne.jp/win/game/16188

 

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。