2021年に読んだ小説50冊の中から、とくに印象に残っている、おもしろかった小説を10冊まとめました。お歳暮感覚でどうぞ。時期、余裕で過ぎてるんですけど。

 


1.ショーン・タン『内なる町から来た話』(岸本佐知子・訳)

①今年最初に読んだ
デカ重たくて小説なのかよくわからない

 

以上2つの理由から印象に残っている作品。もちろん、内容が私好みの動物にまつわる不思議な話、しかも、掌編がめっちゃ入ってるタイプだったことも大きい。1編のボリュームが絵本くらいしかないのに全編で考察がはかどるのも最高だった。デカいけど。重いけど。

 

感想記事:https://www.mugitter.com/2021/01/08/uchinarumachikarakitahanashi/

 

 


2.ジョーン・エイキン『月のケーキ』(三辺律子・訳)

これも海外産の不思議な話短編集だけど、すまんな。この時期ちょうど篠田知和基の『世界植物神話』とか読んでたんで考察めっちゃはかどって、それで印象に残ってるんですよね。内容は奇妙系とファンタジー半々だけど哲学っぽい要素もあってよき。

 

感想記事:https://www.mugitter.com/2021/02/17/mooncake/

 

 


3.谷瑞恵『額装師の祈り 奥野夏樹のデザインノート』

正直話の展開としてはあまり自分好みじゃなかったんだけど、いかんせんテーマというか、行間から透けて見える作者の誠実さというか、温度祈り?みたいなのがよかった。自分の過去を、見つめなおしてちょっと整理整頓できたような読後感。

 

感想記事:https://www.mugitter.com/2021/03/23/gakusoushinoinori/

 

 


4.斜線堂有紀『ゴールデンタイムの消費期限』

一応自分も物書きの端くれなので、若さとか才能とか、考えさせられるものが多々ありました。後半たしかボロ泣きだった。綴喜くんの「お父さんに見てもらうために、映画を使うなよ」という言葉は今なお私の心の中に響いています。

 

 


5.佐々木愛『料理なんて愛なんて』

これもラストシーンはあまり自分好みじゃないんだけど、その点を抜きにしても女性らしさ / 男性らしさをテーマにした小説を今年何冊か読んだ中でそれを料理という観点から突きつめていくところが素朴というか、親近感があって印象に残っています。名前が似てるから贔屓してるわけじゃないよ

 

感想記事:https://www.mugitter.com/2021/04/21/ryourinanteainante/

 

 


6.小林由香『まだ人を殺していません』

最初から衝撃、最後も衝撃、だけど前後の衝撃は成分が全然違うっていう語彙力消し飛ぶぐらいなんかすごい作品だった。彼のなにを疑うべきでなにを真に受けるべきなのかっていうせめぎあいは辻村深月の『闇祓』第1章にも似てるけど、あれはあくまでエンタメとしてのエッセンスであって、その臨場感や葛藤、後半で明かされる真実など設計は個人的にはこっちのほうが好み。

 

 


7.スティーヴン・ミルハウザー『エドウィン・マルハウス』(岸本佐知子・訳)

まず、この本が1冊丸々〈ジェフリー・カートライトという少年が執筆した「エドウィン・マルハウス」の評伝である〉という設定が強烈すぎる。で、途中、少なくとも5回は読むのあきらめようと思ったぐらい異常なまでに緻密で冗長な文章。これに耐えるだけの衝撃がちゃんとクライマックスに用意されているという事実。この怪作を書きあげた作者が一番狂ってるというところが最大の推しポイント。

 

感想記事:https://www.mugitter.com/2021/11/09/edwin-mullhouse/

 

 


8.高瀬隼子『水たまりで息をする』

静かに、狂っていく。令和の文学だなという印象です。今村夏子の作品と異なる点はそこにいる傍観者が狂気に対してわりと受動的に見えるところ、あと狂気が私たちにとても近いところで発生しているという感覚かな、って個人的には思っています。

 

感想記事:https://www.mugitter.com/2021/12/01/mizutamarideikiwosuru/

 

 


9.真下みこと『あさひは失敗しない』

装丁があまりに性癖すぎる。しかも、単に世界観にマッチしてるからとかじゃなくて、ちゃんと意味があってこの油絵が表紙に選ばれてるんだよなぁ。たった一度でも踏み外してしまうともう止まれない絶望感がたまりません。子供の頃はあんなに素敵に響いていたのに、大人になるにつれだんだん呪いのように自分を縛りつける言葉――あなたにはありますか?

 

感想記事:https://www.mugitter.com/2021/12/23/asahihashippaishinai/

 

 


10.風森章羽『私たちは空になれない』

令和のド傑作。具体的になにがよかったのか言葉にするのは難しいし、言葉にしたらネタバレになってしまうし、勧めるとしたら前情報一切なしで読んでもらいたいから内容は教えません。本当によかった。優しくて、だからこそあまりに残酷。だけどその歪みが、突き抜けるほどに青くて美しい。

 

 


 

以上です。来年の本選びの参考になればうれしいです。

ぎゅれぎゅれ。

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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。