Binary Haze Interactiveから出ているゲーム『ENDER LILIES: Quietus of the Knights』がめちゃくちゃおもしろかったので、考えたことをあれこれまとめておきます。ネタバレあり。とはいえ物語の考察は他所の良質な記事に任せ、こちらはあくまで雑感です。
ENDER LILIES⇒ユリを断ち切る者
LILIYが複数形(LILIES)なのは、フリーティアを元につくられた白巫女のクローンたちを総称して「リリィ」と呼ぶからだと思われ。
フリーティアという名前は「フリージア」をもじったものなんじゃないかと想像しています。花言葉の中に「多くの人に愛されてきました」とありました。これは白巫女の中でもとくにたくさんの人たちを浄化してきた彼女にふさわしい花言葉であり、さらに穢れの象徴ともいえる赤の場合「純潔」になりますから、これ以上の犠牲者を出さないため深淵で一人穢れを溜めこんだ結果の赤黒い姿――〈穢れの王〉は彼女なりの「純潔」の形でもあったのだと思います。
副題が「Quiest of the knigthts(静かなる騎士)」というのもリリィのそばで力となってくれる黒衣の騎士との位置関係を文字でもきちんと表現している感じがして良きですよね。
ユリはとくに白であれば「純潔」「威厳」の花言葉を持つほか、クロユリは「呪い」の花言葉を持ちます。正確にはユリとクロユリは別の植物らしいんですけどね。
また、篠田知和基『世界植物神話』によるとユリはペルセポネがハデスに攫われたときに摘んでいた花とされています。作中で拾える初代王の手記にも「古き民の子を拾って連れてきてしまった」と書いてありました。巫女=無垢なる威厳が攫われたことによって王国が穢れによる冥界と化した、と考えることもできるのかなと。
一方、キリスト教におけるユリは聖母の純潔をあらわします。白巫女による浄化のさまは人々にとってはまさに聖母のように見えたことでしょう。そしてTipsを手に入れるまで私は「白教」のことを「はっきょう」と読んでいました。「発狂」と音が一緒なのはなんて皮肉かと。
ユリの語源についても、「ゆれる」から出た語ではないかとする説があります。浄化を行うことでさまざまな人々の想いを感じて成長していくリリィ。そして、最初はリリィを殺そうとも考えていた黒衣の騎士が彼女を見守るうちやがて考えを改めていったその心境をあらわしているといえなくもない話ですよね。
ゲームタイトルや主人公の名前はリリィ(ユリ)なんだけど、道中お世話になるHPやスキル回復の花は、あれたぶん蓮の花なんだよね。形的に。花言葉は「清純な心」「信仰」「清浄」など。とくに「清浄」は回復効果とマッチしてるなって思いました。
蓮は英語でlotus(ロータス)ですが、ギリシャでは「ロトス」の実を食べると故郷のことを忘れてしまうとか。作中でなにか食べるという描写はなかったけど、そういえばリリィって最初に目覚めたときは記憶喪失だったよね。
このロトスが蓮なのか睡蓮なのかは定かでなく、というのも、植物学上は別種だけど神話では蓮と睡蓮はとくに区別されてないんだって。エジプトにおける「蓮」とは睡蓮のことで、神々の秘密が隠されているとも。フリーティアが深淵で溜めこんだ穢れが蓮の花となって地上にあらわれる、それを追っていった結果リリィが深淵にてフリーティアと邂逅する、というストーリー構成を彷彿とさせる。
個人的には、ある説ではロトスを「至福の幻覚」を与えてくれる「麻薬的植物」としている、という記述も気になりました。白巫女という至福の幻覚。あるいは白教の信仰という麻薬的作用。なるほどなるほど。
また、「巫女」という神秘性なワードから個人的にこれは「母殺し」の物語だったなと感じずにはいられません。
詳細はこちらの記事を参考にしてもらうとして、ギリシア神話に登場するエレクトラの親殺しを参考に娘による「母殺し」の特徴を挙げると、
①自分の親だとわかったうえで殺害する自覚と計画性がある。
②他者の力を借りた間接的殺害である。
③親殺しに対する明確な罰がない。
リリィはすべて当てはまっています。戦闘前にフリーティアの元の姿をちゃんと確認していますし、戦闘では浄化した人々の力(スキル)を使いますし、浄化の結果最終的に得たものは死の雨がやんだ世界とそこで生きる自由なので。そしてなにより、母であるフリーティアが最期にくれたのは「あなたは私ではない」という言葉でした。模倣を終えて個を確立する。これを成長といわずしてなんという。
というわけで、『ENDER LILIES: Quietus of the Knights』の諸々の雑感でした。
参考にしたサイト一覧
https://nekoyakata.net/ender-lilies-tips01-10/#No01
https://www.geboku-kyoudai.com/entry/ENDER-LILIES-Consideration2