【感想】
  • ただ、今に一途であるということ -『こちらあみ子』感想

    今村夏子『こちらあみ子』を読みました。以前読んだ短編集『あひる』が上手く言葉にできないけれど衝撃的で、著者と作品を理解するにはもっと数を読みこむ必要があるのでは、とデビュー作である「こちらあみ子」を含むこちらの短編集にも手を出した次第です。結論を言ってしまうとますますわからなくなった。で、私はそういうまったくわからない小説が好き。 話題の『あひる』を読む前に ...

    2019年6月6日

  • 「鳥かえっこ(代替)」の物語 -『あひる』感想

    昔、どこかで見聞きした話。2人は母子か姉妹だった気がする。母(姉)はあるとき、娘(妹)にお守りをひとつ手わたした。大好きな母(姉)からもらったそのお守りを彼女は大切に身につけていたが、あるとき、なにかの拍子に中身が見えてしまう。中に入っていたのは折りたたまれた紙片。そこにはたった一言「死ね」と書かれていた……。 水面を優雅に泳ぐアヒルの水面下に隠された足は、しかしせわしく水を...

    2019年5月22日

  • 明日、どこかの食卓で -『明日の食卓』感想

    椰月美智子『明日の食卓』を読みました。「石橋ユウ」を育てる3人の母親。そして「イシバシユウ」虐待死のニュース。ミステリー小説っぽいあらすじに惹かれて購入したのですが実際は“どこにでもある”家族小説または親子の物語です。……まぁ、だからゾッとするんですけどね。 ユウを殺したのは、私ですか? 静岡在住、専業主婦の石橋あすみ。神奈川在住、フリーライターの石...
  • 「じぶんちが一番」って、ほんと? -『ひとんち 澤村伊智短編集』を考察する

    !ネタバレ注意! 本記事は澤村伊智『ひとんち 澤村伊智短編集』に関する考察記事です。作品の内容や結末について本文を引用しながら書いているので、作品を既読である、またはネタバレを承諾する場合のみ閲覧することを推奨します。また、記載される内容はあくまで筆者個人の意見です。以上のことに同意していただける方のみ続きをお読みください。 澤村伊智『ひとんち 澤村伊智短編集』...

    2019年4月15日

  • 宿命をくりかえす彼らのために -『砂糖の空から落ちてきた少女』感想

    ショーニン・マグワイア『砂糖の空から落ちてきた少女』(原島文世・訳)を読みました。ジャックとジルによる前日譚『トランクの中に行った双子』をはさんでふたたびナンシーやケイドたちと再会しましたが、……うーん、個人的には『トランクの中に行った双子』≫『不思議の国の少女たち』>本書かなぁ。菓子の国とか正真正銘ファンタジー大冒険だったはずが思っていたよりあっさりした読み心地だった。というわけで、感想...
  • 本に恩返しは、できる。 -『神さまのいる書店 まほろばの夏』感想

    三萩せんや『神さまのいる書店 まほろばの夏』を読みました。以前書店の平積みで最新刊を見かけたことがあって気にはなっていた作品、あるとき偶然にもその第1作目を文庫で見つけたのでとうとう購入。ライトノベルとかキャラクター小説の類なのかなぁと軽い気持ちで読みはじめたはずが本を閉じたときにはすっかり目頭が熱くなっていました。 本に恩返しは、できる。 本好きの...
  • 少女を大人にするもの -『薫香のカナピウム』感想

    上田早夕里『薫香のカナピウム』を読みました。前回『夢みる葦笛』の感想の最後で宣言したとおり、買ったきり本棚でねむっていた同作者の長編を救出です。ここは短編と長編の違いでもありますが、同じSFの括りでも本書は物語に起伏はさほど多くなく、主人公・愛琉の成長を軸に、どっしり腰を据えて読むような作品でした。 静かで、とても騒々しい 生態系が一変した未来の地球...
  • 不完全な葦でありたい -『夢みる葦笛』感想

    上田早夕里『夢みる葦笛』を読みました。文庫裏のあらすじに「「人間とは何か」を問う」とあって良書の予感はしたものの、目次を見たとき「これは挫折するかもしれない」と不安もよぎり。積ん読が尽きた頃にようやくおそるおそる読みはじめたのですが、あのね、最高におもしろかった。それでは本書を読んで考えたこと約1万文字、どうぞ。 人間と世界の本質を問う短編集 ある日...
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Writer
佐々木 麦 Sasaki Mugi
小説を書いたり、読んだ小説についてあれこれ考察をするのが趣味です。雑食のつもりですが、ユニークな設定やしっかりとテーマがある小説に惹かれがち。小説の他に哲学、心理学、美術、異形や神話などの学術本も読みます。